山縣良和

PEOPLEText: mina

ファッションって何なんだろう? ファッションで何ができるんだろう?

そんな大きな問いに真摯に対峙し、エモーショナルにファッションの拡張を提示する「writtenafterwords」(リトゥンアフターワーズ)代表で、デザイナーの山縣良和。これまでJFW(ジャパン・ファッション・ウィーク)などで披露されてきたコレクションには、ファッションとは?を問う「裸の王国」、0点の持つ強さを表現した「Graduate Fashion Show ~0点~ 」、そして2009年10月、創造の原点としてのファッション「神々のファッションショー ~神さまからの贈り物~」などを発表し、賛否両論を巻き起こしてきた。昨年、独自のファッション学を考察する新たな教育の場「ここのがっこう」の活動も始動した彼に話を伺った。

山縣良和
Photo: Haruko Uefuji

山縣さんはファッションに内包される意味性、可能性というものに、自分なりのスタイルで真摯にアプローチされていると思うのですが、そのようなファッションに対する思考の枠組みというのは、いつ頃からどのようにして構築されていかれたのでしょうか。哲学者でファッション学の第一人者でもおられる、鷲田清一さんの影響などもあるのですか?

10代の頃に、服装という視点で自分を着飾るところでのファッションそのものに興味が湧いてきました。そして自分の中で『ファッションの定義は何なんだろう?』とモヤモヤしだしたというか、はっきり定義づけができていなかったところがあって、いろいろな疑問が湧いてきました。その時に一つのきっかけになったのが鷲田清一さんの本でした。「ファッション学のみかた」とか「ファッション学のすべて」とか、「モードの迷宮」とか。その辺をなんとなく手にとって読んでみたら、なんかモヤモヤしてたものがすごくクリアになったというか、とても腑に落ちたところがありました。世の中では、ファッションという定義がとても曖昧になっていて、特に衣服とごっちゃに考えがちですが、今はっきり言えることは、ファッションは衣服ではないということ。ファッションは流行や服装という意味で、現象や服の装い方。衣服は“モノ”であって、英語で “clothes” になる。ファッションはやっぱり服の装い的な意味なので、様相、スタイルというニュアンスで捉えるべきだと思います。そして様相、服装という意味と、社会現象的な意味合いでの流行という意味が含まれるものがファッションという風に捉えています。

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Photo: Daniel Sannwald

「裸の王国」でファッションについて、「0点」で“0”が持つ強さやファッションに領域はないというようなことを表現されていました。ファストファッションのような消費行為、経済行為としてのファッションが最近注目されることが多いですが、「神々のファッションショー」ではそんなファストファッションよりもファストな服を表現されていました。「神々のファッションショー」について少し、教えてください。

もともと一番最初に、なぜああいうことをやりたいかということなんですが、0に戻ろうっていうのを前回やって、今回引き続き0から1になるものを表現したいなと思いました。 そして“創造の原点”を表現したいというところから始まり、“創造の原点”って何だろうというのを考えていくうちに、「創造主=神様」というのが出てきました。そして創造主のファッションというイメージが出てきて、もし神様たちがファッションショーをしていたら?っていうイメージに移行したという流れです。

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© 山縣良和

クリエイションの過程で重要視していることは何ですか?また、そのプライオリティについて教えてください。

どのような形であれまず、オリジナリティやクリエイションという部分に自分は重きを置いています。単純なクリエイションのときもあれば、結構複雑なクリエイションのときもあって、分かりづらい表現も沢山あるのですが、まず一番重きをおいているのはクリエイションです。「神々のファッションショー」もひとつのフィルターを通して見ないと、クリエイティブかどうかっていうところが分わかりづらいと思います。ただ布を巻くにも数千年以上の長い歴史があって、布を巻く行為そのものは、クリエイティブではないっていうことをよく言われたのですが、それは僕としても重々承知しているんです。だけどそれを分かった上で、布を巻くっていうのもモデル一人につき1反の布を巻き付けるというものは無かったであろうと。また神様というお題をそれにつけて、神様が一反の布を巻き付け、巻き終わった後の残ったダンボールの芯をくいっとまげて杖に作り上げるまでの行程は今までなかったのではないでしょうか。またファッションショーという発表形式で、限りなく制作日数を抑えて、最後の最後でやってしまうっていうこと自体も、クリエイションっていうかファッションのひとつの舞台としての見せ方として、今までなかった方法論なんじゃないかなと思います。

プライオリティですが、一番僕が他のデザイナーと違う視点はファッションの捉え方かなと思っていて、一番表現したいのは現象としてのファッションです。装い方であって流行であってというところが一番僕の興味を注がれるところであって、そこでの人間のコミュニケーションみたいなところに興味があるのです。それにどう関わっていくか、それをどう表現しようというところをいつも考えます。ファッションそのものを表現するデザイナーでありたいと思います。ですので、「裸の王様」もファッションを表現したかったのです。裸が意外に流行っちゃったみたいな、そういうファッションそのものを。

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© 山縣良和

ストーリー性のある世界観は、絵本からインスパイアされることも多いようですが、過去の体験なのか記憶なのか、今の山縣さんを構成させているものは何でしょうか?

本当に自然に自分に身についていたものと捉えていて、子供の頃からビジュアルでイメージを頭の中でして、何か物語を考えたり世界観を考えたりという、その延長線上でのものづくりや発想なのではないでしょうか。子供の頃から絵を描いたりするのも好きでしたし。自分が自然にやっていたのが、『あれ!? 自然じゃないのかな』って(笑)。絵本は好きです。やっぱり見ていて心地がいいので、自分を軽く見失ったときなんかに絵本はすごくいいなと思います。

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「the everyones new clothes」© 山縣良和

ファッションは拡散し流動していきます。山縣さんのコレクションへの反応などもそうですが、社会には共感と反発が常にあります。今、山縣さんの中にある共感と反発はどのようなものですか?

変な話ですが、共感と反発の外にいるような感覚があって、個人的な部分では多少の反発というかちょっと嫌だなって思うことはあるのですが、僕の表現という部分での舞台でいうと、反発と共感から1歩引いて表現し、それを肯定したいなっていうのがあります。個人的にアンチテーゼの感覚は無いのですが、善悪に関する情熱みたいなものはあります。アンチテーゼというよりかは逆に、否定されたくないという、否定されているものに対する肯定心です。なので、そういう否定されてるもの、アウトサイドに置かれてるものに対して、『いや、それっていいんじゃないか』ということを表現したくなるのです。否定するのではなく、肯定出来るものを増やしたいのではないでしょうか。しかし何でも良いという訳ではなく、一つだけとてもこだわっている所があって、現代性があるかどうかが僕の視点で最も重要です。現代においての社会性があるかどうか、それが重要です。それを踏まえた上で、ゴミから神さまが僕のファッションにおいての表現です。

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Photo: Koomi Kim

セントラルセントマーティンズ在学中に、「A LONG STORY」という大きなブラジャーの作品をつくられていましたね。

2年生を終えて休学したのですが、その休学中に作りました。「A LONG STORY」は、8人がそれぞれ別々の服装をしている、すごく辺境の村に住んでいる人たちのコレクションというイメージです。少し脱線しますが、「A LONG STORY」にはストーリーがあって、そこに「written by yosikazu yamagata」と書いたのですが、僕はよく物語をイメージしながらデザインをする事が多いのですが、書いた後に、「written by~」とよく書いていました。そこからwrittenという部分の響きがずっと頭の中にあり、ブランドの名前にいれました。

それでコレクションですが、魔女とかホームレスとかひとつひとつ背景にストーリーを考えて、デザインしていきました。ファッションデザインを目指す田舎の女の子とか。それで、デザインの工程も彼女のイメージを考えて構成していく方法をとりました。大きいブラジャーは、いたずら小坊主がいて辺境の森の近くに大きな怪獣が住んでいて、その怪獣から最初は服を盗む。引きずって盗んで行くんですけどその後に小坊主は下着泥棒になって、ブラジャーを盗み、ピンクの子豚もついてくるっていうようなストーリーを考えてファッションショーをやるという。ストーリーを先に考えた方がイメージが湧きます。この人はこういう風な生活しているからこういうものを持っているな、とか。全体で考えていって、空間も考えて、そこから服に落とし込んだようなイメージで考えます。

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「coconogacco collaboration project」

「ここのがっこう」での独自のファッション学のテーマとか研究法について教えてください。

自分なりの教育現場をつくっていて、みんなと何がつくれるかっていうのを考えながらやっています。その延長線上でコラボレーションが行われたり、今までの教育概念とは違うかたちで、何かそういう場所を作れたらと思い、昨年から活動を開始しました。例えば、今週は先生交代。生徒が先生になってもらう。先生と生徒の構図をまず変えたいなと思って。絶対先生が正しいわけじゃないっていうのをまず僕らが見せていかなきゃいけない。ファッションそのものを見たときに、ファッションの歴史を変えていったのはやっぱり若い人たちなので、若い人たちがある意味正解をもっているはずなのだと思います。それなのに年配の先生が全て正解をもっているような構図は、おそらく間違ってるなって思ったので、僕たちの側からもそれが少しでも伝わっていけばいいなっていう気持ちを示すためにも、そのようなプロジェクトをやっています。

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「coconogacco collaboration project」

生徒さんはどんな講義をこれまでにされたりしましたか?

僕たちは当日まで先生役の生徒が何をやるのかわからないし、何でもいいからファッションの講義をしてくださいとお願いするのですが、例えば、自分の古着を持ってきて、ここのこういうところが僕は好きなんだ、かっこいいんだ!っていうのがあったり、東大の方で物理をやっている方がいて、ずっと理論を立てるということをやってきている方なので、そういう視点からファッションの論文とかを解釈すると、全然なってないという話をされたりとか。年齢層もばらばらです。

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「the lace glove」

今後関心のあるテーマ、気になっているものは何ですか?

ファッションそのもの。結局、ファッションで何ができるんだろう、というところでしょうか。ファッションはすごく必要だし自然のものだと思うのですが、ファッションの意味や、力など、もう一度原点に戻りファッションて何ができるだろうかいうのが、自分の中の命題です。20世紀まではファッションは、何を着るかで身分が変わったりとか、社会的なポジションが変わったりとか、すごく重要だったと思いますが、今はそれがフラットになって、何でも自由に何でも着れるし、これを着てるからこの人はこうだというのは、今はなかなかないですから。それではこれからのファッションのできることは何だろう、ということに興味があって、何かしらの活動ができたらというように考えています。

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「Graduate Fashion Show」

それに対する山縣さんなりの現時点での回答はどうなのでしょうか?

例えば、ファッションは流行の先端的なイメージもありましたが、今はそれが逆転しているように感じます。すごいクラシックな業界だし、ファッションそのものがそういったものになったような気がしています。今はインターネットとかウェブの中でのコミュニケーションがさらに細分化して、新しいコミュニケーション方法が出てきている。携帯に始まって、メール、インターネット、コミュニティサイト、ミクシィ、ツイッターという流れの中で、自分自身の身体とかけ離れたところでのコミュニケーションが行われてるというのが、21世紀型の人と人とのコミュニケーションの一つの繋がり方だと思うのです。その時に人と人が会わなくてもできるコミュニケーションが増えたことによって、会って話すコミュニケーションの重要性はなくならないし、さらに重要なところだと思うので、それを突きつめていくと人と人の原点的なコミュニケーションをファッションで伝えられる何かができればなというのがあります。それをさらに発展していけば医療など、ファッションは精神的な心の繋ぎ合わせだと思うので、人の心を癒すとか、社会性を出すという意味において、ファッションの力でできることはあるなと思います。

なお、「ここのがっこう」では新進気鋭のフォトグラファー、Daniel Sannwald(ダニエル・サンウォールド)をドイツから迎え、ファッション写真撮影を中心としたワークショップを2月20日から開催する。詳細はサイトにて確認してほしい。

山縣良和
セントラルセントマーティンズを卒業後、ジョンガリアーノのアシスタントを経て「writtenafterwords」(リトゥンアフターワーズ)代表、ファッションデザイナー。加速する資本主義経済の中でファッションは自由になったが、ファッションデザイナーは自由ではなくなってしまったんじゃないか。そんな疑問を抱きながら、ときにユーモラスに、ストーリー性を持って社会の表象や文化としてのファッションをデザインしている。

Text: mina

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