中村天平

PEOPLEText: Christal Phillips

彼の技術的な才能やクラシック音楽のからの影響が、安易にポップスターとなることなくクラシック音楽のファン層から支持される基盤となってきた。クラシック音楽のレパートリーを持った才能や能力は、彼の尊敬する19世紀、20世紀初頭のロマン主義の作曲者たちに似たとてもユニークな現代作品の音楽的創造を可能にさせている。『彼の作品はみごとに複雑に綴られている。』イエディディア氏はそう表現する。中村の音楽は、彼が音楽学校で学んだリストやショパンといった西洋的要素と上手く融合しているのだ。『ハンガリーラプソディーを感じさせる作品もある。と思えば仏教仏閣等を含んだ日本的な一面も感じることができる。自然界に存在する美や静寂といったもの。それは時にビジュアル的な記憶を強く喚起させる。』ニューヨーク・ピアノ・アカデミーで中村にジャズ理論を指導したヘイム・コットン氏は、彼について品があり気高くて探究心の強い、賢くて信頼の置ける人物だと評価する。また、コットン氏は彼をレナード・バーンスタインやジョージ・ガーシュウィンと重ね合わせ、彼らがクラシック、ジャズからブロードウェイミュージカルの音楽まで手がけ、主流な大衆文化とは一線を画していた点に言及する。『彼なら現代の大衆音楽を習得してコンサートホールで披露することもできるはずだ。』と話すコットン氏は、中村から届いた音楽を聴くなり、彼のピアニストとしてまた作品の美しさに強い衝撃を覚えた。『彼の音楽は映画のサウンドトラックや歌詞をのせることもできるだろうが、作品自体から考えると、クラシック音楽のコンサートホールで演奏される作品として構成されている。それに加えて、彼は音楽史の優れた作品を基礎としてしっかりと身につけている。クラシック音楽の原理が根深く基礎が非常によく確立されている。』天平を友人としてもよく知るコットン氏は、彼を才能に恵まれた芸術家でありながら感謝を忘れず謙虚な姿勢であることに触れる。『既に技巧を持ちながら、どん欲な探究心と指導に対する感謝。優れた音楽家としての証だね。それは彼の大きな魅力でもある。』

日本での成功があっても、ここ米国の音楽業界で日本人ミュージシャンとして道を切り開いていくのは容易ではない。ジャズ界において名を馳せた唯一の日本人は秋吉敏子であろう。しかしながら、教授や友人は中村がジャズとクラシックの要素を融合させる音楽家として活動していくことになろうとなかろうと、彼独自の世界を切り開いていく才能と力を持ち合わせていると口を合わせる。いつの日か東芝EMIから米英両国からアルバムをリリースしたいと希望する彼は、ここアメリカでニューヨークでのライブをサポートしてくれるマネージャーを雇うことも考えている。しかしそれはまだ行動に移されてはおらず、短期間の予定の中での優先順位としてはそれほど高くないようだ。彼の今年の大半のエネルギーは、ニューヨークで幾つかのライブをこなしてゆくよりも、より評価の高いセカンドアルバムを制作することに焦点を絞って注がれている。コットン、イエディディア両氏は中村自身がしっかりとしたビジョンを持ち、因襲を打つ破って音楽界で活躍していくことができると信じている。『この国での今の音楽業界は不確実な要素が沢山ある。」コットン氏は続ける。「従来のレコード契約というものはもはや存在しない。もし天平がこの業界でキャリアを築いていきたいのであれば、インターネットを上手に活用してファンベースから始めていくのが良いだろう。』

在り来たりの道を歩んでこなかった中村は、今のところそれが大きく功を奏したように思える。ハーレムの背景に日が沈んでいく頃、残りの午後の時間を練習と頭の中で作曲のイメージを作ることに費やす予定だと話す。このアパートで数時間過ごす中で、彼のこの人柄と尊敬を集める姿勢を理解するのは難しいことではなかった。それはこれほどの能力をもった音楽家で大きな展望を抱えた人物が稀に持つ宝物であろう。『そういった意味ではほんとうに楽しませてくれる男だよ。』コットン氏は話す。『まるで心の底から音楽に仕えてでもいるように儀礼的にピアノと接しているんだ。こういったことは、あまり目にすることができないよ。本当に素晴らしく慎み深い若者だよ。』そんな中村がもっとも誇りに感じていることは?『両親が非常に喜んでくれているんです。あまりよい息子ではなかったけれど、今は両親が自分のことを誇りに思ってくれることが自分にとって幸せなことです。』

Text: Christal Phillips
Translation: Yoshitaka Futakawa

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