カルティエ現代美術財団のグラフィティ展

HAPPENINGText: Kana Sunayama

1970年代にニューヨークで産声をあげたグラフィティ。現在は公共区画にグラフィティ用の壁が設置されることも少なくないが、その誕生は非合法のものであり、いまでも都市環境の破壊的行為であると見なされる傾向が根強い。そして、階級や人種、またアートに対する興味の有無などとは一切関係なく、都市の思いも寄らないところで誰もが目にする違法行為の産物、それらの行為やリスクなど、全て合わさってこそ、それこそが社会へのメッセージ性を高めるグラフィティの在り方ではないのか、という疑問も残る。グラフィティを「アートムーブメント」とする傾向も非常に興味深く大切な考察である、と考えると同時に、それらを「社会」ではなく「アート」の資料としてアートセンターや美術館に収めてしまい、馬鹿にならない入場料を払ってしか観賞できないものにしてしまっているのも否めない。それはまるで信者が祈りをささげるために、また信者の行いを戒めるために存在したはずの彫刻や絵画などのキリスト教芸術を、美術館のプレキシガラスの中に収め写真撮影の対象として存在させることと同じとも言える。

今までグラフィティとは「街で目に入ってくる」ものであった。これらの展覧会は「グラフィティを見せる。」ということを考える最初の試みであるし、これからのグラフィティの扱い方には多大な議論がなされていくであろう。

カルティエ財団とともにフランス屈指の現代アートメセナ企業であるLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・エ・シャンドン社)も、シャンゼリゼ通りの本店最上階、エスパス・ルイ・ヴィトンで現在行われている「Ecritures siencieuses」 展で、パリ在住のグラフィティアーティスト、「Sun7」の作品を展示している。グラフィティアーティストが、庶民的な街の屋根ではなく、キャピタリズムと消費社会の頂点とも言えるルイ・ヴイトン本店のぬくぬくとした屋根の下で、ジュゼッペ・ペノーネ、トレーシー・エミン、バーバラ・クルーガー、エルネスト・ネトなどの大御所現代アーティストと肩を並べる。

なんとも不思議な話だが、これらのメセナ企業によるグラフィティへの注目は、もちろん一般コレクターにも影響している。去る6月20日はコルネット・サンシールというオークションハウスで全290点のグラフィティ作品が競売にかけられた。競売に先駆けての作品お披露目は「le Cigale」というロックコンサート会場で行われ、総売上は 4万8千ユーロ、70%の作品が売却された。また、6月29日にはアートキュリアルというオークションハウスでもグラフィティ専門の競売が行われた。このアートキュリアル社は2007年からグラフィティ専門のオークションを開始し、世界記録など毎回成功をおさめている。

Né dans la rue – Graffiti
会期:2009年7月7日(火)〜11月29日(日)
時間:11:00〜20:00(月曜日休館)
会場:Fondation Cartier(カルティエ財団)
入館料:一般 5.50 €
住所:261 boulevard Raspail, 75014 Paris
TEL:+33 (0)1 4218 5650
https://fondation.cartier.com

Text: Kana Sunayama
Photos: Kana Sunayama

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