ツェ・スーメイ

PEOPLEText: Mariko Takei, Yurie Hatano

ツェ・スーメイは、音とイメージの詩的ミクスチャーを写真やビデオ、インスタレーション、オブジェといったメディアに転用する一連の作品で、常に移り変わり、常に再確認が必要とされる視点を使って、明らかに相反する有機的、物質的、文化的要素間のハーモニーを紡ぎだす。サウンド、リズム、音楽が、彼女の作品のなかで欠かせない要素であることは、一時停止したり、沈黙の時間を設けたり、ある程度の内省を促すことに現れている。2003年にヴェネツィア・ビエンナーレでベスト・ナショナル・パティシペーションの金獅子賞を獲得、現在精力的に世界で展示展開しているツェ・スーメイ。2009年2月には、水戸芸術館において彼女の個展が開かれる。

スーメイ・ツェ

ご自身のバックグランドも含めて、自己紹介をお願いします。

1973年にルクセンブルグで生まれました。パリの国立美術学校を卒業し、現在はパリとルクセンブルグに住み、制作しています。

2003年のベネツィア・ビエンナーレでは、ルクセンブルグ館で展示し、ベスト・ナショナル・パティシペーションとして金獅子賞をいただきました。それからというもの、世界中の多くのミュージアムやギャラリーの展示で私の生活はとても忙しくなりました。アントワープのティム・ファン・ラエレ・ギャラリー、ニューヨークのピーター・ブラム・ギャラリーPS1、ルクセンブルグのカジノ現代芸術フォーラム、シカゴのルネッサンス・ソサエティ、シアトルのアジア美術館、台湾の現代美術館、アテネのADギャラリーなどです。

アーティストを志すようになったきっかけや経緯を教えて下さい。

勉強し始めた頃から、私の関心はいつも音楽とアートの間のどこかにありました。しかし、ビジュアルの世界に魅了された私は、ファイン・アートの勉強に専念することに決め、チェロを弾くのを控えました。数年前から、自分の音楽的関心と経験を作品の言語として利用し始めました。そうした自己表現によって、私が一番満たされた気持ちになれたのです。

2003年にベネツィア・ビエンナーレでルクセンブルグ代表として金獅子賞を受賞された作品について教えて下さい。

カナル・グランデ沿いの宮殿、カデル・ドゥッカの1階にあるルクセンブルグ・パビリオンで、彫刻、音響やビデオによるインスタレーションを構成しました。

以下は、2003年7月のロサンジェルス・タイムズ紙の記事からの引用です。
「アート、ピュア、シンプル」 by クリストファー・マイルズ

『ルクセンブルグ・パビリオンは、訪れた者をほどよく蒸留された詩的瞬間に誘い込む、感覚のエコノミーを見せている。ツェのパビリオンは、時間と空間とイメージとサウンドとそれらのコンビネーションによってこれまでにない感覚の解釈をもたらす潜在性についてのメディテーションを行う5つの部屋で構成されている。「まず、人々に沈黙を感じてもらって、自らが持つ音やリズムについて気づいてもらいたかったのです。」と言うアーティストは、最初の部屋を気泡ゴムで制作し、空間を無音響な洞窟に作り替え、口臭洗剤のように音を剥ぎ取ってしまう。他の2つの部屋も、時間について、訪れる者に同じような効果をもたらす。一つ目の部屋では、シンプルな座る場所があり、毛糸で編まれたボールと文字の断片が、ギリシャ神話でユリシーズを待ち続けるペネロペを仄めかしている。2つ目の部屋では、砂時計が展示され奇妙な時間を刻み、一般に考えられているペースや計りを取り除いてしまう。そこでは、時間が曖昧になっていく。
しかし、これらの飾り気のない2つの部屋は、ビデオが投影されている残りのもう2つの部屋で提示される豊潤なプレゼントの準備にもなっている。一つ目の「L’echo」では、チェロ奏者(ツェ自身)が、山々に囲まれたアルプスの牧草地で彼女自身の反響に対抗するように演奏している。2つ目の「Les Balayeurs du desert」(砂漠清掃人)では、制服を着た男たちが広大な砂漠でほうきを掃いて、交互に掃除をしたり、一休みしたりしている。サウンドトラックは、パリ市の街路清掃人の音の録音で構成されており、彼らのリズミックに繰り返される活動は、作品を印象づけ、また演奏するアーティスト自身がパリに住んでいたときに日常的に背景として聞いていた音を思い起こさせている。
隣り合わせの部屋で投影されたこの2つのビデオ作品は、それぞれ詩的でリズミカルな音響を背景にすることによって、お互いにとって共生的な伴奏になっている。ロマンと詩へのあからさまな情熱を見せる一方で、ツェは、ユーモアと遊びの感覚も取り入れている。彼女は、砂漠に明らかなニセ画像である清掃人をデジタルに差し込んだり、アルプスの草地を通常以上に鮮やかな緑色にしたりする工夫を施すことで、作品を過剰に真剣に受け止める必要ははい、ということを仄めかしている。』

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