福井利佐 たらちね

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日本の伝統技術と斬新なアプローチで独自の表現スタイルを確立、積極的なコラボレーションを通じて日本中で活躍し、また世界でも注目を集めている切り絵アーティスト、福井利佐。彼女の大胆な構図ときめ細やかな描写の切り絵作品は、見る者を惹き付けて止まない。

切り絵という概念にとらわれることのない数々の新しい試みの1つとして、彼女の作品は映像表現にも仕上げられている。STUDIO4℃が制作、トンコリ奏者OKIが音楽を担当した「たらちね」である。

福井利佐 たらちね福井利佐 たらちね


日本のなつかしい風景を舞台にした、約11分間の映像作品。和歌の枕詞として見られる「たらちね」というタイトルにも現れている物語のテーマは「母と子の絆」だ。この作品のために、福井氏は、170余りの原画を切りおろし、その構想から監督までを務めた。

福井利佐 たらちね

物語は、不思議な力がある母親と、盲目の子供を主人公として繰り広げられる。目が見えるようになる代わりに自分の母親を失う子供。それはどのような別れと言えるのか。

福井利佐 たらちね

福井氏が最初に与えられたテーマだったという切腹のシーンが、中でも印象的に飛び込んで来る。本人曰く『現実にはありえない』女性の切腹という行為によって、命の継承をする部位としての女性のお腹が強調された。ただの柔らかさや優しさだけにはない母と子の関係の描写には、より一層の「絆」が迫りくる。

福井利佐 たらちね

しかし、ここにある物語は1つではない。作品には福井氏があえて提示する解釈の余地が多分にあり、従ってストーリーを追うでなくとも見る者それぞれの故郷なり経験なり想いなりは、美しく力強い一コマ一コマから呼び起こされるのだ。

福井利佐 たらちね

人物、動物、植物、描かれる生命体の1つ1つやその表情が、平面作品としての切り絵に見られる力強さそのままに、さらなる生命を持って美しく動かされている。トンコリ奏者OKIによる音楽もまた、そうした映像と通じる素晴らしい組み合わせとなった。

福井利佐 たらちね

全ての人が生まれる「母」というルーツの周りには、日本や故郷というルーツ、また先住民文化にあるルーツ、そして切り絵という表現のルーツがかかる。それら命の継承の有りように、新しく生まれるものと失われるもの。この作品や作品の存在自体、作品を通じた表現者としての福井氏に感じられるのは、そうした全てだった。

映像作品はあくまでコラボレーション作品だと語っていた福井利佐。自分の思いを的確に伝える手段として作品集を付けたという。DVD「たらちね Tarachine」では、静止画、動画、その制作の舞台裏を、隈無く楽しむことができる。

福井利佐 たらちね

たらちね Tarachine
切り絵原画集 〜映像作品「たらちね」の舞台裏〜

著者:福井利佐
映像制作:STUDIO4℃
映像音楽:OKI
定価:6,090円(税込)
仕様:182 x 250 x 13 mm、136頁、DVD付
言語:日本語、英語
発売: 株式会社ボーンデジタル
ISBN:978-4-86246-060-8

Text: Yurie Hatano

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