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「夢十夜」展

HAPPENINGText: Yoshihiro Kanematsu

『こんな夢を見た。』

夏目漱石の短編『夢十夜』は、漱石がかつて見た十の夢のはなしだ。潤いのある黒い眼で、もう死にますと云う女性の話や、無造作な彫り口で凛々しい仁王を露わにする運慶の話。夢うつつに磨き澄まされたフレーズが、さもありそうな情景を如実に思わせながらも、おもむろに不可思議へと導いていくストーリー。毎度のオチは不条理ながらもどこか痛快で、漱石のユニークな粋がつまった知る人ぞ知る名作である。

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「第一夜」アダプター

1月25日から2月13日まで、アンド・エー渋谷店と梅田店を巡回している「夢十夜」展は、その『夢十夜』をモチーフとした展示会だ。

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「第ニ夜」今井トゥーンズ

日本が誇る文豪の夢のシニフィエと戯れるアートワーク。この容易でない挑戦に、アダプター(第一夜)、今井トゥーンズ(第二夜)、福井利佐(第四夜)、黒田潔(第六夜)、飯田竜太(第十夜)などなど10組が参加を表明した。漱石の時代から1世紀あまり経て、今のトーキョーの雰囲気をそこはかとなく担うアーティストばかりで興味深い。文学と美学をつなぐ夢解釈は、結果どんなまだ見ぬイメージをもたらすのだろうか。

※2店舗にて同時開催の為、作品を期間中に入れ替えます。

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「第三夜」古内ジュン

女性が逢いにくるまで、星の破片を拾いながらひたすら時を待ちつづける幻想的な「第一夜」は、アダプターらしい美しいコラージュ。艶やかな黒い眸が輝いて、永遠を一瞬のモノクロームに詰め込む。和尚と禅問答を繰り広げる意固地な侍を描いた「第二夜」をテーマとした今井トゥーンズは、写真とペイントがまぐわるひとつのまとまりを4つに裂いた。主体と無が交錯する悟りの境地か、十字の光が実に神々しい。あるいは手拭いを蛇にしてみせようという爺さんが登場する「第四夜」。福井利佐は、巧みに欺かれてしまいそうな覆われた危うさを、翁の能面になぞらえて切り出す。

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「第四夜」福井利佐

目を閉じて視覚を感じる夢見る行為は、アーカイブ化されたあらゆる目にしたものを引っ張り出して、様々なコンテクストで再構築する。つまりはそれだけで、アート的な行為そのものなのだ。アナロジーが無限にイマジネーションを刺激することこそ、「夢」を追体験する妙味なのである。

原作の象徴をトレースしてイメージをこしらえるアートによる応答は、単なる文章と挿絵の関係をゆうに超えていた。アーティストそれぞれの夢物語がそこにあって、漱石によるショートストーリーは格段のプロローグとなる。

「夢十夜」展
会期:2007年1月25日〜2月13日
会場:And A 渋谷店と梅田店
http://www.and-a.com

Text: Yoshihiro Kanematsu
Photos: Yoshihiro Kanematsu

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