ラファエル・ロサノ=ヘメル「アモーダル・サスペンション」

HAPPENINGText: Chiaki Sakaguchi

この広がりに大きく貢献したのが、MITメディアラボ、ドイツのZKM、日本科学未来館、オランダのV2などを含む世界15か国27か所のアート/メディアセンター、科学館に設置された端末「アクセスポッド」だ。遠隔地でリアルタイムに擬似体験できるこの端末設置は、ロサノ=ヘメルに対する信頼をベースに、各センターの迅速な対応によって実現した。世界のメディアセンター間をつなぐネットワーク・コミュニティの可能性の扉が、初めて開かれたことになる。

『このプロジェクトは、テクノロジーを介したテレコミュニケーションの難しさについても問いかけている』と、ロサノ=ヘメルがいうように、システムはスムーズな会話をもたらすものではない。翻訳ソフトは、チャーミングにまぬけな翻訳を披露してくれるし、特定の人にあてたメッセージも別の人が横取りできてしまう。グローバリゼーションへのシニカルな問いかけともとれる、差異やギャップを含むこの非効率なコミュニケーションは、一方でスローな山口のテンポに不思議となじんでいた。未来への希望、恋人や友人、家族にあてたベストウィッシーズ。送られたメッセージは、圧倒的にラブ&ピースなものが多かった。平和のメッセージによってテイクオーバーされた公共空間に、小さな希望を見いだすのは性急だろうか。

11月25日午後6時。光はもう現れない。山口はいつもの夜空を取り戻し、なんの痕跡も空には残っていない。これがラファエル・ロサノ=ヘメルの作品だ。見る者の意識を一旦変容させ、あとにはなにも形を残さない。そのかわり、私たちの記憶に長くサスペンドされ、新たな都市のイメージへと、私たちの想像を膨らませてくれるのだ。

*ラファエル・ロサノ=ヘメルは、12月3日から10日まで、フランス・リヨンの「fete des lumieres」に参加する。

YCAMでは、12月28日まで、館内公共スペースを使って国内外の6組のアーティストの作品を展示した「メディア・ソケッツ〜多層なる創造圏」を開催中。

* アモーダル・サスペンションの3Dシミュレーションは、ウェブサイトで体験することができる。

アモーダル・サスペンション ー 飛びかう光のメッセージ
会期:2003年11月1日〜11月24日
会場:山口情報芸術センター
住所:山口市中園町7-7
TEL:083-901-2222
https://www.ycam.jp

Text: Chiaki Sakaguchi
Photos: Kazuumi Takahashi, Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

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