ウロボロス VOL.1

HAPPENINGText: Shinichi Ishikawa

札幌の大バコ、キングムーの薄暗い通路を抜けると吹き抜けのメインフロアに出た。階段をゆっくり下る途中、階下のステージでは複数の女の子が演劇を思わせるパフォーマンスを行っているのが見えた。ふと右上をみると僕のいる階段より上の位置にあるステージを一望可能な通路にアフロヘアーに黒いスーツの男が神経質そうな表情で階下のステージをみつめていた。スメリーだった。彼のその表情と、ちよっと前にインターネットで読んだインタビュー記事を思い起こすと、彼の活動の意味が理解できたような気がした。

その日その場所で、「ウロボロス Vol.1 PERFORMASTERS 4」が行われた。本イベントは、日々チャンスを狙って作品を作っているあらゆるタイプの意欲的なクリエイターのために作品発表の「場」を提供していく…というコンセプトを持っている。このように明確な形でクリエーターのプレゼンテーションをメインの目的にしたイベントは札幌では「ありそうでない」ものではないかと思う。

今回は、ゲストとして全国ツアーを行なっているアート系パフォーマンス集団である、グラインダーマントーストガール、スメリーをフィーチャーした「PERFORMASTERS 4」のステージも行われた。

いろいろな意味でトーストガールが興味深かった。頭の上にセットしたトースターでパンを焼く、というパフォーマンスによって注目され、現在ではメジャーよりCDをリリースして活躍をしている真っ赤な髪の女の子。ステージでは、ダンサー風の女の子2人を含めた、ちよっとした寸劇のなかに、ライブなども取り入れたスタイルで行われていた。サウンドトラックもなかなかセンスの良さを感じさせつつシンプルなノリの良さもあった。

彼女の表現はポップでキュートなのだけど、その裏には若い女の子特有の奇妙で不安定な心情が感じられて、奥が深い。そのあたりがメジャーになっても容易に安全なパッケージングにされない彼女の魅力ではないかと思う。よろめきながら両足に一台つつ掃除機をローラースケートがわりにつけてパフォーマンスを行う彼女を観ているとその確信は深まった。キャンディー(?)をステージにバラまきながら、『まだ、帰らないでね!』とステージを去っていった。この気取りのなさも気分ちが良い。生活感のあるアート好きの女の子…そのあたりが彼女の本質ではないだろうか。

その後、スメリーはいきなりのDJタイム。ブースの前にマイケル・ジャクソンのジャケを飾り、写真パネルも持ちながらマイケルの曲を連続プレイ。『バブルス君は檻の中!』といったMCも重ねて、場を盛り上げていく。彼のパフォーマンスをおもしろいし、非常に魅力的だ。彼は僕にそう素直に思わせてしまうパワーを持っている。現在のテレビのバラエティ番組の大キライな僕にである。

僕はもともと笑いをともなうアート/デザインというのは苦手で、「別にアートで笑いたくないよ」といつも思っていた。でも、スメリーやトーストガールらにはアートがバラエティになりうるという可能性を感じられずにはいられない。今、いわゆる「お笑い芸人」と呼ばれる人達が身内の下っ端芸人を巻き込んだ企画モノやよくある日常の体験談で、笑いをとりにいく傾向のなか、自らのアート・パフォーマンスを「芸」として非常に真剣な姿勢でエンターティメントに向かう彼らほうが、本来の「お笑い」のもつ批評的パワーがあり、同時に日本では世間とは分離しがちなコンテンポラリーアート(現代美術)の魅力を広めていく役割をはたすのではないだろうか。

ウロボロスは第2回目からは、イラスト、写真、CG、映像等のテーマに添ってアートバトルと審査が行われる予定。やはり、自分の地元でおこなわれるという点が、身近に存在する、同じ空気を吸い、同じ都市に住む、新たなる才能を体験できるのが嬉しい。今後の動向に注目していきたい。

ウロボロス VOL.1 PERFORMASTERS 4
日時:2002年8月11日(日)18:00〜3:00
会場:KING XMHU
住所:札幌市中央区南7条西4丁目
TEL:011-531-8922
https://www.phoenix-c.or.jp/~arayo/

Text: Shinichi Ishikawa

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鈴木将弘
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