ボブ・ジル

PEOPLEText: Rei Inamoto

現在多くのデザイナーを駆り立てる二つの病がある。それは「クールであること」と「どうやってやるか」。これらの病に悩まされる理由は彼らが「何を」作るかを忘れているからだ。カッコ良く見えることに囚われ過ぎ、どうやったらカッコイイことができるのかばかりを考え、自分が言いたい事が何なのか、あるいは伝えたい事などあったのか忘れてしまっている。

たぶん昨今の若手デザイナーの多くは、ボブ・ジルというデザイナーを知らない。彼は「言いたい事」を持っている。彼が世界に影響を与えるようなデザイン会社「ペンタグラム」を創設したことすら知らないだろう。


Bob Gill, Unspecial Effects, 2001 © Graphis, Inc.

80年代後半のデスクトップ革命以来、デザイナー以外の人々がデザインのプロセスに関わりやすくなった。コンピューターとフォトショップさえあれば、「自分はデザイナーだ」と言う事ができるかもしれない。

『神秘主義者たちは、とうとう通常のデザインから姿を消してしまった。』新しく出版された「アンスペシャル・エフェクツ・フォー・グラフィックデザイナー」の冒頭でボブ・ジルは述べる。『以前は沢山お金を払ってスペシャリストにしてもらっていた仕事をタイピストができるなら、デザイナーにはいったい何が残っているのだろう?デザイナーはコンピューターを使えるタイピストではできない事をしなければならない。』

コンピューターを使えるタイピストがすることは、ホットでトレンディーなものを真似してカッコよく見える物を作ること。ギルは、それらのクールな小技をどうやってものにするかについても考察している。「どのように」して「カッコイイ」ものを作るかという絶えまないサイクルができ始めた。

コンピューターを使えるタイピストができない事は「伝えるべき何か」にある。これはまさに何も伝える事がない多くのデザイナーの問題。『その題材について全く何も知らないと仮定してリサーチしなさい。そして面白い物がみつかるまで、あるいはさらに進んで、伝えたいオリジナルの何かが見つかるまでリサーチをやめないことです。これは独自のイメージを作り出すには最も好ましい方法なのです。』とギルはアドバイスする。

ボブ・ジルの作品の面白みは、作品が30年前にデザインされたのたか、一ヶ月前にデザインされたのか見分けがつかないことにある。それは彼のデザインは、カッコよさや技術的なことではなく、「何を」伝えるかに重点を置いてコミュニケーションを計っているからだ。本の中でジルは「一番始めにビジュアル的に考えるのではなく、興味深いステートメントを考える」という論理を教えてくれる。この思想優先のアプローチは、常に彼の作品に反映されている。


Bob Gill, Unspecial Effects, 2001 © Graphis, Inc.

あるギャラリーの引越しのために作られたカードは、フックがついた色褪せた壁の写真が使われた。そのカードは「そこに掛けられていた絵が動かされた」というイメージやストーリーを受け取った人の心に伝える。テレビジョン・オートメーションのためにデザインしたロゴも頭のいいデザインの一つで、TAと読めると同時にTVとも読める。彼は問題を見事に純粋な形に昇華し、直接的だがウィットに富んだ解決策を見つけだす。

どんなに素晴らしい特種効果よりエキサイティングなのは観客に『見ろよ!君はこのことに気付いていたかい?ずーっと君の目の前にあったんだけどな!』と言えることだとジルは述べている。

Text: Rei Inamoto
Translation: Eriko Nakagawa

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