瀬戸内国際芸術祭 2025
これらの新作と並行して、瀬戸内国際芸術祭のベテラン作家たちが、過去の作品を大胆に再構築し、回をまたいだダイナミックな連続性を生み出している。クリスチャン・ボルタンスキーが豊島に残した心にしみる遺産は、ボルタンスキーの死後数年間に収集されたコミュニティからの心臓の鼓動を用いて、彼のサウンドベースの作品「心臓音のアーカイブ」を、インタラクティブなリスニングを可能にする新しい空間形態に再解釈した。
眞壁陸二《男木島 路地壁画プロジェクト》2010年-、男木島 Photo: Sébastien Raineri
儚いインスタレーション、建築への介入、参加型の儀式など、瀬戸内国際芸術祭2025は、物理的、感情的、歴史的に場所の質感に反応する作品を重視している。アーティストたちは、島の高齢化、海洋生態系、重層的な過去と関わり、世代間、地理間、感性間の架け橋として機能する作品を制作するよう求められている。
ザ・キャビンカンパニー《休校書店 メコチャン》2025年、女木島 Photo: Sébastien Raineri
瀬戸内国際芸術祭は、その16年の歴史の中で、地域活性化、社会再生、生態系保全のための進化するモデルとして、島のインフラストラクチャーとなってきた。2025年の開催に向け、人口減少、地域社会の高齢化、脆弱な生態系といった状況の中で、大規模な国際アートイベントの意味を再定義し続けている。ここでは、アートは中断されるものではなく、統合されるものであり、季節や生涯にわたって展開されるプロセスである。本芸術祭の特徴のひとつは、地元住民の積極的な参加である。彼らの多くは、ガイド、通訳、職人としてだけでなく、作品そのものの共同制作者としても活躍している。今年は、アーティストと観客の境界線を曖昧にするようデザインされた一連のプロジェクトを通じて、そのパートナーシップ精神がさらに深まる。
アーティストと住民の架け橋として重要な役割を果たしているのが、「こえび隊」のボランティアたちだ。作品の制作やメンテナンスの手伝いから、地域イベントの企画、島を訪れる観光客の案内まで、その貢献は多岐にわたる。コミュニティ・キッチンの運営やお祭りへの参加、島の暮らしを記録したニュースレターの発行など、芸術祭を地域に根ざしたものにしている。
清水久和《オリーブのリーゼント》2013年-、小豆島 Photo: Kimito Takahashi
清水久和の《オリーブのリーゼント》は、小豆島のオリーブ畑の中で、現代アートと地域文化や地域との関わりをシームレスに融合させた、気まぐれでありながら奥深いランドマークとして立っている。日本の古典的なリーゼントの髪型をした特大のオリーブを模したこの彫刻は、芸術的なステートメントとしてだけでなく、地元の果物や野菜を観光客に提供する機能的な無人のキオスクとしても機能している。
瀬戸内国際芸術祭は、しばしば「アート主導の地域活性化」のモデルとして称賛されるが、その真の成功は、安易な模倣に抵抗する能力にある。ここで機能しているのは、持続的な信頼、長期的な関与、そして複雑さを受け入れる意欲の産物である。2025年版は、アートフェスティバルが季節的で反復的で、深く根付いたものであり、答えではなく、問いかけの新たな方法を提供するものであるという考えを強化するものである。
キュレーターの北川フラムは言う。『トリエンナーレは次の大きなものを目指すものではなく、次の意味のあるものを目指すものなのです』。瀬戸内国際芸術祭2025は、注意深く耳を傾け、相互に学び合い、ゆっくりと変容していく芸術のビジョンという貴重なものを提供してくれる。まさに希望の海だ。
瀬戸内国際芸術祭 2025
会期:春 2025年4月18日(金)〜5月25日(日)、夏 8月1日(金)〜31日(日)、秋 10月3日(金)〜11月9日(日)
会場:瀬戸内海の島々
https://setouchi-artfest.jp
Text: Sébastien Raineri
Translation: Saya Regalado
Photos: Sébastien Raineri
