再開館記念「不在」― トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル
HAPPENINGText: Alma Reyes
ジャヌ・アヴリルの一連の版画、《ジャヌ・アヴリル(ジャルダン・ド・パリ)》(1893年)には、羽のついた帽子で知られるフランスのダンサー、ジャヌ・アヴリルが描かれている。ロートレックのリトグラフで好んで描かれた彼女もまた貧しい生活を送っていたが、ムーラン・ルージュでスターダムにのし上がった。アヴリルもロートレックの才能を高く評価し、彼にポスターを注文している。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ジャヌ・アヴリル(ジャルダン・ド・パリ)》1893年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵
ロートレックが描いた人々は、はるか昔に世を去り、今日ではほとんどその存在が忘れ去られているが、画家のポスターによって記憶されている。喜劇役者コーデューの恰幅の良い体躯や長い手袋を舞台に立つ時に常用していた歌手のイヴェット・ギルベールのように、彼はモデルの個性的な特徴を強く打ち出して、その存在を印象付けた。ロートレックのもうひとつの有名な傑作である《ディヴァン・ジャポネ》(1893年)では、紳士にエスコートされた女性はその帽子からジャヌ・アヴリル、ステージ上の顔が描かれていない歌手はその手袋から、ギルベールであることがわかる。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《『イヴェット・ギルベール』表紙》1894年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵
カフェ・コンサートは貧しい労働者階級のための娯楽であった。ロートレックが劇場やクラブに魅了されたのは、カフェ・コンサートの女王と称されたギルベールのようなパフォーマーたちの存在があったからだ。彼女はまた、画家の長年のミューズのひとりとなり、彼のポスターの多くに登場した。『イヴェット・ギルベール』の表紙では、ギルベールの姿はなく手袋が描かれているだけだが、彼女の姿がないにもかかわらず、それが不在の持ち主の存在を主張している。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 《メイ・ミルトン》1895年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵
展示の一室が、ロートレックの線描画に捧げられている。エドガー・ドガや北斎から多大な影響を受けたロートレックは、木炭によるデッサンの原理を習得した。当時の挿絵はほとんどが単色刷りで、モーリス・ジョワイヤン・コレクションには単色の刷りのポスターが多く残されている。《メイ・ミルトン》(1895年)は、色彩の鮮やかさには欠けるかもしれないが、表現力豊かなロートレックの描線の存在を主張するものでもある。
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