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生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真

HAPPENINGText: Alma Reyes

第四部「夢幻と不条理の沃野」では、シュルレアリスティック(超現実的)なスタイルを煽動する作品が並ぶ。1930年代半ば、新即物主義は徐々に衰退し、代わりに被写体の背後に隠された要素を示唆するテーマへと感心は移行し、作品には抽象的で詩的な表現が現れるようになった。


安井仲治《 海辺 》1938年、個人蔵(兵庫県立美術館寄託) Photo: Alma Reyes

強いコントラストで人目を引く作品《 海辺 》(1938年)は、写真家たちの撮影会が開かれた大阪府の貝塚海岸で撮影された。シルエットとして浮かぶ写真家たちと小舟に向かって続く木の板が描く線が、見事な遠近感を生み出している。


安井仲治《 流氓ユダヤ 窓 》1941年、個人蔵(兵庫県立美術館寄託)

第五部「不易と流行」における1930年代後半から1942年にかけての安井の作品は、より明晰で人間味に溢れている。1937年に勃発した日中戦争は、写真家の活動を制約した。しかし、安井はその制約の中でも、人々の葛藤や不安、全体主義の不条理を記録することを妨げなかった。第二次世界大戦中、ユダヤ人難民がヨーロッパから迫害を逃れて神戸に入国した。安井は、《 流氓ユダヤ 窓 》(1941年)で、ドラマティックな陰影と構図によって、ユダヤ人の恐怖と喪失の感情を巧みに表現している。


安井仲治《(馬と少女)》1940年、個人蔵(兵庫県立美術館寄託)

一方で、サーカスの人々を撮影した作品からは、ユーモアと哀愁が感じとれる。《(馬と少女)》(1940年)は、安井が子供たちを連れてサーカス公演に出かけた時の一場面。どちらかというと憂鬱な表情をした二人の少女が、馬のまなざしに向かい合っている。《(サーカスの女)》(1940年)は、大きな布に包まれたエンターテイナーを描写した一枚で、安井の卓越した芸術性を改めて浮き彫りにしている。

安井は38歳という若さでこの世を去ったが、病没するまでの約20年という短い写歴の間に、驚くほど多彩な作品を残した。戦前日本写真界のフロントラインをひた走った安井の写真には100年の時を超えてなお私たちを惹きつける魅力がある。彼のカメラのレンズを通して繰り広げられた人生のドラマは、いつまでも人々の心に貴重なものとして残るだろう。

生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真
会期:2024年2月23日(金・祝)〜4月14日(日)
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで)
休館日:月曜日(4月8日は開館)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
TEL:03-3212-2485
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/

Text: Alma Reyes
Translation: Saya Regalado

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