生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真

HAPPENINGText: Alma Reyes

第二部「都市への眼差し」の1920年代後半から1930年代前半にかけての安井の作品は、労働者や工場を被写体に取り込むなど、ドイツの新即物主義やシュルレアリスムの流れを汲むリアリズム写真運動の影響を強く受けている。安井は、浪華写真倶楽部所属の写真家たちにより1930年に結成された丹平写真倶楽部のメンバーとして、常識にとらわれないアングルからの撮影や、フォトグラム(感光紙の上に直接物体を置き、光を当てて撮影する写真技法)や、フォトコラージュなど、斬新な技法を駆使した作品を発表した。


安井仲治《(凝視)》1931年(モダンプリント制作:2023年)

この時代の非常に魅惑的な作品が《(凝視)》(1931年)である。人物の顔がフレーム全体を支配し、工事現場らしきものがコラージュされている。各ネガは4回露光されたようだが、2枚は反転され、1枚は2回使用されたと思われる。トリミングした複数のネガを重ね合わせて1枚の画像を作り出し、ゼラチンシルバープリントの工程を経るという手の込んだ手法である。


安井仲治《 メーデーの写真 》1931年(モダンプリント制作:2004年)渋谷区立松濤美術館蔵 Photo: Alma Reyes

同時期のもう一つの力作は、大阪中之島でデモ隊が反乱を起こすという、非常にドラマチックなエピソードを押さえた《 メーデーの写真 》(1931年)である。傾斜したアングルをフレーミングしたことで、躍動する現場の動きと混沌を感じさせる。

1930年代後半、安井は雑誌への寄稿を中心に、写真展やコンクールの審査員も務めた。第三部「静物のある風景」では、子供、昆虫、小動物、静物など、日常的な風景が織り込まれている。この時期、安井の兄、姉、息子が相次いで亡くなるという悲劇的な状況が、このような傾向に影響を与えたのかもしれない。


安井仲治《スケッチ》1933年頃、個人蔵(兵庫県立美術館寄託) Photo: Alma Reyes

この時代の代表作の一つが《 スケッチ 》(1933年頃)である。安井は「半静物」という言葉を用い、撮影場所での被写体と即興的な出来事の組み合わせを表現した。その結果、現実と超現実の間のあいまいな感覚が伝わってくる。この写真では、文字と暖簾を背景に、自転車に乗る男性が一つの風景として表現されている。

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