川村真司

PEOPLEText: Mariko Takei

NHKの「ピタゴラスイッチ」の製作に携わっていらっしゃるようですが、川村さんはどの部分を手掛けていらっしゃいましたか?

僕がメインに担当した部分は「ピタゴラ装置」と「アルゴリズム体操」でした。ピタゴラ装置は普通の家庭にある日用品を使って新しい玩具を作れたら、子供も家で真似ができて面白いなと思って企画しました。またピタゴラスイッチはいくつかの複数のコーナーで構成しようとしていたので、そのコーナーとコーナーをMTVのステーションID風につなぐのにちょうどいい表現だったんです。僕が関わっていたころは家からいろんな本やら食器やらを持ち寄ってNHKに2週間ほど泊まり込み合宿をして、設計図もなしにみんなで「ああでもない、こうでもない」いいながらアドリブで作ってました。おかげで撮影に70テイク以上かかるような複雑な装置もあったりして大変でした。

アルゴリズム体操は、佐藤雅彦先生といっしょに振り付けを考えました。教員室にこもって2人でせーのでいろんな振り付けを試したのを今でも覚えています。子供と親だったり、友達同士だったり、他の人とつながって完成したときに面白くなるような振り付けを目指しました。子供や親から振り付け覚えて踊ってます!と言われる度にすごくうれしくなります。巡り巡ってある日YouTubeでフィリピンの刑務所の人がアルゴリズム体操を踊っている動画を見たときも感動したのを覚えてます。

今回、DOTMOV 2009でセレクトされた作品「日々の音色」について教えてください。SOURの楽曲「日々の音色」のミュージッククリップですが、製作の経緯、表現のアイディアや、共同制作者のご紹介も併せて作品紹介をお願いします。

元々SOURのhoshijimaとは高校で同級生だったんです。そのときから彼は音楽をやっていて、僕は絵とかを描いていて。活動の範囲は違っていても、お互いに趣味がすごいあっていたからいつか何か一緒にできたらいいねって話をしていて、SOURのデビューに合わせて初めて「半月」というミュージックビデオを作りました。その後「面影の先」という曲のためのビデオも作ったので、彼らのためにビデオを作るのは今回で3度目になります。

今作「日々の音色」は僕と、BBHでチームを組んでいるハル・カークランド(彼とは前作「面影の先」もいっしょに制作)、それとニューヨークで活動してる映像作家のナカムラマギコ中村将良とで作り上げました。4人の根性の結晶です(笑)。

まず企画を考え始めたとき真っ先に「日々の音色」の歌詞から、「バラバラの個性」「つながり」といったイメージがコンセプトとして浮かびました。それからバンドが日本にいて僕ら制作チームはニューヨークにいたので直接撮影はできなかったり、予算もないので撮影機材もそんなにいいものは使えないといった課題がありました。ただ、逆にそうした制約を活かした企画を考えられないかと発想を切り替えた時に、ファンにウェブカムで撮った映像を送ってもらって、それをつなぎ合わせて大きな絵を作り上げたらどうだろうというアイディアを思いつく事ができました。僕らが日本と連絡をするときはスカイプだし、「今の人ってそういう形でつながっているよね」と。

制作期間は企画構想から完成までで約3ヶ月ほどかかりました。僕らスタッフが4人とも昼間は別の仕事をしていたり、相当な人数に演技指導と撮影をしなくてはいけなかったため想像以上に時間がかかりました…。コンセプトが決まってから始めのひと月は、様々なサイズのグリッドを出力してそこに考えられる限りのアイディアをどんどん書き起こしていきました。その中で良さそうなものを今度はアニメーションにして曲とのタイミングを計り、それをもとに細かい振り付けをテストするため一度自分たちを撮影して編集して、ビデオのプロトタイプを作成しました。その映像を参加してくれるファンの人に送って、それを参考に踊ってもらいました。映像をいじっているように思われるかもしれませんが、なるべくタイム・ストレッチなど編集のギミックを使っていないことに執心しました。そのこだわりと、見知らぬ人とつながる喜びや、ファンの人々のバンドへの愛情などがこのビデオの手作りな質感と完成度を生んでいるんだと思います。

幅広い分野で作品を制作していますが、どの作品にも「ユーモア」な部分を一貫して感じられます。川村さんにとって、ユーモアを表現することはひとつのテーマでもありますか?

実は自分では「ユーモア」とか「笑い」が苦手だと思ってるんですよね(笑)。
僕がはっきりと求めているテーマは、シンプルでユニバーサルな表現であるということ。どの国の子供でも大人でも、誰が見ても楽しめるような表現が一番強い表現だと思って制作をしています。ただそれに加えて、最近自分の作ってきた作品を振り返って思うのは、自分がどこか人の温もりというか緩さを感じさせる表現が好みなのかな、ということ。もしかしたらその緩さの部分がユーモアに感じていただけてるのかもしれませんね。

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