「スクラッチ・オン・ザ・ウォール:日本のグラフィティ+ペインター最前線」
「Scratch on the wall – 日本のグラフィティ+ペインター最前線」は、グラフィティとペインティングをつなぐ作品集/インタビュー集だ。登場するのはライブペイントデュオ DOPPEL、ベテランのグラフィティライター LOOT、自然と光を描くグラフィティアーティスト QUESTA、ポストグラフィティ論を掲げるライブペインター OEILなど、幅広い顔ぶれ。この本は現在様々に発展している “グラフィティ的” な文化を再編集する試みであり、ストリート発の美のあり方としてポジティブにその力強さを称えるものである。
管理社会に喧嘩を売るべく、イリーガルなボムとしてグラフィティが生まれてから40年ほど。壁にペイントする行為は今や、セレクトショップの店内から病院の外観まで、リーガルなアートとしても受け入れられるようになってきた。確かに一般的なところでいうと、壁に向かってスプレーを持っている人=イリーガルな存在というイメージは、まだ根強くあるのかもしれない。それでも “グラフィティ的” な流れが、リーガル/イリーガルを超えた日本独自の新たな文脈を生み出しつつあることは間違いないだろう。
ただグラフィティ+ペインターと一口で言っても、そのアティテュードは多様だ。ストリートで街をボムしつづけるハードコアなライター、クラブシーンでライブに瞬間を残そうとするペインター、あるいはグラフィティにルーツを求めながらも芸術として作品を高めていくアーティスト。彼らには共通することもあれば、まったく相容れないところもある。どうビジネスにしていくのか、表現とお金の関係。彫刻や版画、日本画といった美術的なバックグラウンドと、ストリートでの叩き上げで確立されたスタイルとの違い。インタビューでは、そのような著者のストレートな突っ込みと切り返しが生々しく展開される。そして気づけば、微妙に異なる立ち位置がだんだんと浮き彫りになる。
「グラフィティという経済活動からはみ出していく動きを、再度アートと足して二で割って、経済活動のなかにギリギリの線で踏みとどめるスタンスでやっていこうかな」(QUESTA)
「僕は理論が先行しないように気をつけている。理論家ではないので。だから、論だけではなくて僕の実践活動を合わせて見たときに理解してくれる人はすごく増えてきているし、それが正しい理解なんだと思います。」(OEIL)
これらは彼らのリアルな言葉のほんの一部だ。今改めてグラフィティ+ペインターに聞いてみたかったことを聞いてくれたという意味でも、この本は貴重な資料となるはずである。
Scratch on the wall – 日本のグラフィティ+ペインター最前線
著者:長澤均+パピエ・コレ
仕様:21.8 x 18.2 cm、142ページ、日本語
ISBN-10:4860202295
価格:2,500円(税込)
出版社:ブルース・インターアクションズ
https://www.bls-act.co.jp
Text: Yoshihiro Kanematsu