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エリック・ベイリー

PEOPLEText: Mark Buswell

キッチンとベッドルームの間が、エリック・ベイリーのペイント用スタジオ。そこにはイーゼルや、鳥や犬、子供などの参照用写真、絵の具の入ったジャーなどが溢れている。パレットの上では、彼の友人がリリースするヒップホップのアルバムのジャケットを描いていた絵の具がかたまりになっている。その絵は、血に混じり、サイズの大きいボクシンググローブとパンツ、チャンピオンベルトを身に付けた少年が描かれたものだ。

それはまだイーゼルの上で、乾燥するのを待っている。エリックはレコードレーベルのマネージャーと電話で話している。『じゃあ14時半に。ああ、いいですね。…300ドルくらいで考えていましたが。かなりいい線だと思います(冗談まじりに)…テリーは私の友人だし応援したいと思っています。…はい、では。』受話器をかちゃっと置き、取り引きは成立。エリックは笑顔を見せ、かるく声を出して笑った。

今日もいつもと同じようにエリックと過ごす時間。彼とはもうかれこれ 12年もの付き合いだ。彼は間違いなく私の知り合いのなかで一番親切で、才能があり、情熱的な人間だ。日々の生活や人へ向ける彼の愛は、彼の作品だけではなく性格にも表れている。ただ誤解しないでほしい。彼の生活の全てが華々しいわけではなく、地に足のついた人生観を持つことで、彼自身が輝いているのだ。

エリックはこの街で生きるだけでなく、この街を繁栄させようともしている。周辺の環境や生活からの影響を強く受けた彼のビジュアルランゲージからは、何か恐ろしいような雰囲気を感じるかもしれない。しかしエリックが目を向けているのは、そんな “恐れ” ではない。じっくり見てみると、そんな第一印象を打ち消すような遊び心や生き生きとした精神が感じられ、見る者を安心させてくれる。

リビングのソファの上にかけられているのは、「テッド」(油絵, 2003)という絵。一匹のピットブルテリアがしっかりとしたポーズで座っていて、筋肉の筋はブラシのストロークを重ねて表現されている。ピットブルテリアは獰猛な動物だという一般的な概念には目を向けず、彼はテッドを上機嫌なスマイルと忠誠の眼差しで描いている。『ピットブルテリアは飼うには危険な動物だと考えられていますが、実際はそんなことないんです。私の兄弟が飼っているピットブルテリアは、まぬけで、遊ぶのが大好きで、何かを傷つけたりするようなことはありません。』作品制作や生活の中でエリックがインスピレーションを得るのは、多元的で矛盾した要素のものであることが多い。

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