エリック・ソウ
春も間近な暖かい日の午後3時半、 エリック・ソウは遅い朝食をとっていた。彼の隣に座りアイスレモンティーを飲みながら、彼の人格を表す冷静で落ち着いた物腰を見つめる。チャイニーズヌードルを一口食べ、広告代理店での経歴をゆっくりと話し始めた。
コンセプトビジュアライザー/アートディレクターとして、かわりばえのしない仕事をしていたというエリックは、コンピューターの進化とイラストレーションに対する報酬の削減に伴い、広告業界の忙しい日々からの引退を決意し、より大胆で刺激的な生活へと移行していった。独自のスタイル、ブランドを展開し、彼の本当の才能を思うように表現するために。
食事も終わり、僕の自宅兼店へと向かい、インタビューを開始。エリックはさっきよりもリラックスしているようだ。
エリックの最も有名な作品は、手作りのブルース・リー12インチフィギュア。彼のトイコレクションは、昔のスーパーマンのフィギュアから日本のスーパーヒーローものまで幅広い。香港にはスーパーヒーローはいないと気付いた彼にとって、ブルース・リーを選ぶのは、実に簡単なことだったという。スーパーマンとは違い、ブルース・リーは、香港が生んだ実在した人物だからだ。それが、彼の子供時代のアイドルだったブルース・リーの 12インチと等身大フィギュアを制作するきっかけとなった。
当初、マンガ家としてコミックエキスポで初作品を販売していたエリックだが、その後、油絵の才能を開花させていった。彼の油絵作品は、フィギュアと共に昨年ニューヨークと東京で展示された。彼が作るフィギュアに対して世界中から多くの反応があったこともあり、ニューヨークのファッションレーベル、SSURと共同で「SO FUN」カップルというコンセプトを展開。これは、エリックのアイディアのほんの一面に過ぎないが、ブルース・リーとチョウ・ユンファのフィギュアにおけるアートは、彼が子供だった70年代後半から80年代のアイドルを忠実に形にしたもの。 エリックがリーとユンファを崇拝するのは、彼らがメディアで人気があったからではなく、彼らがアーティストだからだ。
ブルース・リーは、カンフーと映画の才能で知られていたが、アートセンスなど、それ以外のことに対しても才能があったと思われる。もしブルース・リーが今でも生きていたとすれば、哲学者として有名になっていたかもしれない。それが、エリックがリーを崇拝する理由の一つだ。チョウ・ユンファに関しては、香港で彼の存在が大きなものになったのは、80年代。彼のギャングスターのシンボルとしての存在は、多くのティーンエイジャーを惹き付け、エリックもその一人だった。
『チョウ・ユンファは、80年代の香港を代表する人物で、僕が育った時期を深く反映する存在。僕がユンファを扱うのは、彼のハリウッドでの人気のためではないのです。』
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