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越後妻有アートトリエンナーレ 2003

HAPPENINGText: Chiaki Sakaguchi

妻有3日目。激しい雨の音で目が覚めた。宿のテレビで九州各地の水害を報じるニュースを見て少し不安になった。残念ながら、屋外作品の多い川西市と宿から遠い十日町はあきらめることに。それでも土砂降りの中、<落石注意>の看板のかかる谷沿いの細道を、秋山郷にある本間純の「メルティング・ウォール」を見に行った。


本間純「メルティング・ウォール」

雨にけむる山あいの廃校の片隅にあるプールの真ん中に、農業用水を循環させた水の壁が立っていた。土砂降りの雨と流れる水の壁、まるで風景全体が溶けて流れだしていきそうな不思議な光景だった。ちょうど作業中の作家とも会えた。前回の妻有でのかまぼこ型倉庫に色鉛筆を並べた作品もよかったが、水の壁を通して見える風景はまるで印象派の絵画のように美しく、土砂降りの中はるばるきた甲斐があった。ほっとした。


マリーナ・アブラモヴィッチ「夢の家」

松之山町の上湯集落にある宿泊施設として2000年から運営されているマリーナ・アブラモヴィッチの「夢の家」周辺に、新たに3人のオーストラリア人作家の作品が設置されたというので、最後に見に行った。「夢の家」のはす向かいの民家の1Fには、ローレン・バーコヴィッツの「収穫の家」、その2Fにはロビン・バッケンの「米との対話」。そして「夢の家」横の蔵では、ジャネット・ローレンスの「エリクシール/不老不死の薬」と呼ばれる薬草酒のテイスティングバーがオープン。地元の人々と専門家が選んだ草木や木の実、果実を漬け込んだ薬草酒をテイスティングできる。この上湯一体、ちょっと魔女の魔法にかかったよう?


ジャネット・ローレンス「エリクシール/不老不死の薬」

結局、雨と連休最後のUターンラッシュを危惧して、予定よりも早めに妻有を後にした。3日間の滞在で、40余りの作品を見たけれど、川西市や十日町市街、大厳寺高原は見ることができなかった。それでもゆっくり回ったおかげで、このアートイベントの本質が体験できたように思う。谷間に花畑を想像してみること、峠の木陰で汗がひくのを静かに待つこと、作品を目指してスノーシェードを何度もデジャヴュのようにくぐり抜けること。アートがなければそうした体験はできなかったし、そもそも妻有へ来ることは一生なかったかもしれない。としたら、この体験は個人的だけど、私は十分妻有にくる意味があったのだ。

最後に、妻有を回るための具体的情報を。とりあえず3つのステージのどれかへいって、入場券となるパス、地図、ガイドブックを手にいれよう。各作品を見るには定期的バスツアーを利用する手がある。主要な作品を解説付きで楽に見て回れるので効率はいい。また250個のスタンプを全部集めると、文字が浮かび上がるという噂もあるので、強者は挑戦されたし。でも普通は全部を見ることなど不可能に近いので、自分たちで車で回るなら、日程に応じておおよそのルートを考えておくといい。でもいきあたりばったりで作品を見てももちろんOK。妻有の人は道を聞くと親切丁寧に教えてくれるので、道に迷うのも楽しい。アクセスについては妻有トリエンナーレのホームページ、インフォメーション欄に詳しく載っている。

宿泊はジェームズ・タレルの「光の家」やマリナ・アブラモヴィッチの「夢の家」といったアーティストの作品に泊まっていいし(夏休みはほぼ満杯。確認のこと)地元の民宿や旅館もあたたかくもてなしてくれる。温泉、米どころ蕎麦どころの妻有の味覚も大いに堪能したい。どんな楽しみ方だって自由だ。そうして、バスツアーでも車でも徒歩でも自転車でも滞在の長期短期を問わず、ぜひやってほしいこと。それは、自分だけの風景をどこかに見つけること。妻有を去っても、会期が終わって作品が消えても、イメージは長く残るから。

この夏、私ももう一度妻有に行きます。

第2回 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003
会期:2003年7月20日(日)〜9月7日(日)
会場:越後妻有6市町村(新潟県十日町市、川西町、津南町、中里村、松代町、松之山町)
主催:大地の芸術祭・花の道実行委員会
事務局:十日町地域広域事務組合
TEL:0257-57-2637
info@echigo-tsumari.jp
https://www.echigo-tsumari.jp

Text: Chiaki Sakaguchi
Photos: Chiaki Sakaguchi

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