越後妻有アートトリエンナーレ 2003

HAPPENINGText: Chiaki Sakaguchi

津南と十日町の中間にある中里村の水田の一画に現れる赤い鉄の塀に囲まれたスペースは、フィンランドの建築家、カサグランデ&リンターラによる公園だ。コールテン鋼の壁に沿って、砂利、ガラスが順に敷き詰められた回廊をぬけると、白い玉砂利を敷いた広場へとでた。頭上高く繁る大きな木々が私たちを歓迎するようで、守られている、そんな安心感のある場所だ。自然、農業、工業の3要素からなるこの細長い公園は、禅庭のような静謐さをたたえた聖域のようでいて、パワーショベルのスコップが転がっていたりと、ユーモラスな面もある。彼らはいくつかの候補地からこの場所を選び、アラスカ、プエルトリコ、フランスなど世界各地で出会った建築家たちを引き連れてやってきた。沢山の要素がミニマムなデザインに集約されている。その何もなさ、ニュートラルさゆえに、きっと人々に長く愛される場所になるだろうと思った。


カサグランデ&リンターラ

今回のトリエンナーレの目玉の一つに、街づくりの拠点として建設された3つのステージがある。前夜祭が行われた松代町の「まつだい雪国農耕文化村センター」もその一つ。水田の中に突如出現するこの白亜のステージの設計を手がけたのは、オランダの話題の建築家ユニット・MVRDV。豪雪に耐え、様々な人がつながる場所という機能がデザインになった外観は美しい。周辺には3年前の作品が数多く残り、新たに草間彌生の極彩色の花の彫刻や、この地域独特のかまぼこ型倉庫に着目した小沢剛の「かまぼこ型倉庫プロジェクト」などが出現し、アートのテーマパークともいう賑やかさ。そのせいか、このモダンな建物も違和感なく水田に映える。


MVRDV「まつだい雪国農耕文化村センター」

ステージの内部は、フランスのジャン=リュック・ヴィルムートが鏡のテーブルと写真を設置したレストランや、フランスのファブリス・イベールがデザインした囲炉裏など、作品が施設の一部として機能しているところが多くあった。しかし通路は迷路のようでわかりづらく、派手なカラーのエレベーターホールやトイレのドアのしかけなど、慣れるまでずいぶん時間のかかる建物という印象は否めない。


ジャン=リュック・ヴィルムート

前夜祭には、1Fのピロティのこけらおとしとして、オランダのクリスティアン・バスティアンスによる「越後妻有版・真実のリア王」が公演された。『生きるべきか死ぬべきか…』あのシェークスピアの「リア王」を、過疎化をテーマに翻案し、妻有の老人たちが主人公として出演するという異色の現代劇だ。


クリスティアン・バスティアンス「越後妻有版・真実のリア王」

開演を待ってざわめく会場の右端にいたごく普通の老人たちが、そろそろと舞台中央に移動し、そしてテーブルに御馳走をひろげ、静かに酒を酌み交わし始めた。法事の席という設定だろうか。セリフはなく、スピーカーからぽつりぽつりと、戦争や過疎の暮らしを語る老人の声が流れる。会場に吊された衣装は、妻有で手に入る着物や蓑など、様々な素材を使って制作したもので、それが亡霊のように時たま照らし出される。「一人だって必要でしょうか?」繰り返される問いかけ。舞台中央でえんえんと宴を続ける老人たちが哀れに思えてくる。この重苦しい後ろめたさはなんだろう?

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