越後妻有アートトリエンナーレ 2003

HAPPENINGText: Chiaki Sakaguchi

そこから松之山町へ下り、手塚貴晴+由比設計による松之山ステージ・越後松之山『森の学校』キョロロを訪れる。ここは、森や里山という生きた教科書への扉となる、自然科学と文化を視野に入れたユニークな施設。


越後松之山『森の学校』キョロロ

オーストラリア・アボリジニーの大規模な現代美術展の他、松之山名誉町民である「日本一の昆虫屋」志賀卯助の驚異的な蝶のコレクションが見られる。逢坂卓郎による発光ダイオード7,656個が点灯する暗く幻想的なキョロロタワーを上ってみた。地元の子供たちと「怖くないよ。もう少し!」とか励まし合いながら、狭い階段を息を切らせて登ってきたのに、展望台のアクリルの窓が開かなくて残念。そのかわり冬には雪の断面や光を観察できるそうだけど、新鮮な空気が吸いたかった。のぼってきた階段を駆け下り、膝をガクガクさせながら外に出ると、昼頃着いて今夜帰るという東京からの一行に遭遇。とりあえずタワーにはぜひ上るようにとすすめた。短い滞在の彼女たちへ、せめて筋肉痛の思い出を。


川俣正

2000年に川俣正が学生らとデザインした駐車場の一部に、この辺でよくみかける無人野菜販売所のような小屋が沢山設置され、地元の特産品を展示していた。帰り道車を走らせていると、似たような無人販売所がところどころに。「まるで川俣さんの作品のようだね。」といって笑って、よく見たら本当に作品だった。前回は刈り取った稲を干す、妻有独特の「ハセ」を何キロにもわたって山道に張り巡らせた川俣。今回またしても風景にカムフラージュした作品をつくった。面白い。


クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン「夏の旅」

友人を津南で拾い、松之山のクリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンの作品「夏の旅」を訪れた。過疎化で廃校になった小学校をまるごと使ったインスタレーションは圧巻。何もない廊下にピアノの音と、子供たちのはしゃぐ声がこだまして、教室には子供服が吊され、2Fの廊下では首振り扇風機が窓の白いカーテンを揺らしている。誰もいないのに人の気配で満ちている。音楽室をのぞくと、白い布に覆われた机が無造作に並び、たちこめる霧の奥に、発声練習をする古い子供の写真が。人々の去った小学校へのレクイエムだろうか、しかしやっぱり怖くなって日の落ちる前にそそくさとその場を立ち去った。

夜には十日町ステージ越後妻有交流館・キナーレで大地の芸術祭のオープニングパーティが開かれた。原広司+アトリエ・ファイ建築研究所設計によるキナーレは、中央の広い水場が開放的な建物で、温泉もある。水場を囲んだ回廊にも作品が設置されていて、藤浩志の「かえっこショップ」や、大山由華の「ジュエリー・クィッキーズ」、パルコ木ノ下の「特撮映画を作ろう!十日町防衛隊(小学生編)」など、コミュニケーションを介して変化していくタイプの作品が多い。パーティは盛況で、東京のオープニングパーティ以上の顔ぶれ。ようやくオープニングにこぎつけた主催者側の安堵感と、旅行気分で半ば解放的なゲストたちで大賑わい。夜8時からは十日町市街地で、平野治朗+斉藤精一によるきもの流しのイベントが行われた。光る風船を手にした着物姿の人々が市街地をゆっくりと行進し、蒸し暑い夏の幻想的な夜祭りを演出していた。そして、その行列が通り過ぎるのを待っていたかのように、ぽつぽつと雨が降り出した。

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