タイポセラピー+デザイン

PEOPLEText: Sachiko Kurashina

第1回目のTEKKOでは、そのデザイナーの知名度に関わらず、デザインというジャンルから選ばれたデザイナーの作品をポスターという形で紹介しましたね。その反響はどうでしたか?また、有名、無名のデザイナーの作品をミックスして展示するということで、どのような発見がありましたか?

様々な作品を一同に展示することに、最初はとても難しさを感じました。でもこれこそが、私達がすごく印象付けたいと思った点ですし、トロントやカナダが世界のデザインコミュニティの一部である、という強い主張でもありました。ディビット・カーソンには、本当に手を焼きました。彼の展覧会参加への同意も得ていましたし、彼の名前が展覧会のマップ等に載ることについても問題はないと私達は思っていました。しかし、展覧会前日、彼から展覧会用の作品を制作するのを忘れた、との知らせを受け、これで私の人生は終わりだと思いました・・・。実際、展覧会に現れた私はちょっと酔っぱらっていましたし、哀れに見えたと思います。でもディビットは基本的にはいい人ですし、24時間以内に私の人生をめちゃくちゃにしてやろう等と思ってやったことではないことは分かっています。これも今では笑い話です。

展覧会の期間中、そして終了後にいただいた反響は、トロントで私達が開催した初の挑戦として望んでいたものよりも、遥かに良いものでした。会場も小規模でしたし、最終日の夜は余りにも大勢の入場者が来たので時間内で終了することができず、来場者を追い出すように鍵を閉めることになってしまったのです。これは冗談ではありません。脚を運んでくれたお客さんは、彼等がここ何年か注目して来たデザイナーの作品を見れるチャンスを逃したくなかったのではないかと思います。無名のスタジオにとっては、ビューロ・デストラクトプラネット・ピクセルのようなスタジオと肩を並べて彼等の作品を展示することが、結果的に彼等の背中をポンと押すことになったと思います。一番困ったのは、最終日にポスターを盗もうとする人が多かったことです。スコッチウィスキーを振る舞ったのが良くなかったのかもしれません。

国際的なデザインコミュニティがとても協力的であったこと。そして少しづつではありますが、私達もそのコミュニティの一員になりつつあることを実感しました。胸の辺りが暖かくなるのを感じました。


A work of typotherapy+design.

第2回目のTEKKOも開催目前ですが、こちらはどういった内容になっているか、具体的に説明してください。また、主催者としての今の心境を教えて下さい。

第2回目のTEKKOでは、8組のデザインスタジオが参加し、縦横2.75メートルのプリントの「壁画」を展示します。作品の内容は、全面的に各々のスタジオに任せています。この展覧会は、総意の下にテーマが無い、特別なものなのです。

今回は前回のポスターから更に規模が大きくなり、壁画での展示、ということですが、実際にアーティストにはカナダまで脚を運んでもらい、制作を行ってもらったのでしょうか?参加アーティストもビュ-ロ・デストラクトマット・オーエンスリンゼン等、第一線で活躍するアーティストが勢ぞろいしており、興味深いです。数ある中から、今回参加するデザイナーやデザインカンパニーを選んだ理由は何ですか?

壁画については、実際に壁にペイントしてもらうのではなく、印刷されたものとして提出してもらいました。予算も多いとは決して言えない状態でしたので、トロントまで来てくれたアーティストはいません。MOVEABLEという会社が、巨大なフォーマット・デジタル・プレスで印刷を手掛けてくれました。デザインは2.75メートル四方でしたか、パネルでは縦2.75メートル、横2.5メートルという大きさになります。

今回の展覧会に参加してくれた全ての人たちとは、良い関係を気付く為にかなりの時間を費やしたので、私が参加してほしいな、と思っていたスタジオが実際に参加してくれたのは、それ程驚くべく事ではない気がします。まずスタジオを探して、彼等と個人的に良い関係築き、もし上手い具合に彼等と親しくなれたら、TEKKOに参加しませんか?と誘った、という訳です。


Left: A work of typotherapy+design. Right: A work of Buro Destruct.

TEKKOは「デザイナー自らの作品や考えを発表できる自由な場所」だそうですが、回を重ねるごとに、TEKKOとしてのその意味は強まってきていると思いますか?

この展覧会がブルース・マウのマニフェストの様な展覧会になって欲しいとは微塵も思っていません。デザインがある、日々のインタラクションは、市場価値のコンテクストにあるものだと思っていますし、TEKKOではデザインスタジオがクライアントとのごたごたを忘れたり、違う視点から彼等自身だけではなく、彼等の作品を見つめ直す機会を得てくれれば、と思っています。できるだけ面白く、知性のある展覧会であり続けて欲しいと思いますが、同時に手の付けられない「クライアントチック」な作品を展示するようなものにはなって欲しくない、という気持ちがあります。これは、トロントで開かれたブルース・マウの展覧会に行く度にいつも私が感ることですし、そこでは、ただ高そうなクライアントワークを展示し、現代デザインや現代アートさえ感じられないのです(もちろんこれは主観的で私個人の意見です)。

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