島津冬樹

PEOPLEText: Wakana Kawahito

この8〜9年の間に機能面もかなり改善したとか。どの点を工夫していきましたか?

最初はマジックテープを使っていたのですが、安っぽく見えるためボタンに変えました。あとは安全面から、ホチキス留めにしていた部分をやめて全部ボンドにしたり、小銭を入れやすくしたりカード入れを増やしたりしていきました。


Carton Long Wallet, Model 2019 © Carton

それにつれて値段設定も変えていったのですよね?

美大の芸術祭で売っていた初期のモデルの頃は500円だったのですが、改良するにつれて耐久性も増し、制作の手間も増えました。今販売しているのは7000円や10000円のものもあります。長期使用できることから、この価格設定にしています。
最近では年間600個ほど生産できるようになりました。

ダンボール収集のために世界中に旅に行かれていますが、これまでに何カ国行かれてどんなダンボールを集めましたか?

大学2年生の頃から今までで、30カ国に行きました。初めて行ったのはニューヨークで、そこで見たダンボールがカッコよくて感動しました。日本とは違ったデザインというのが魅力です。


Cardboard of the Year 2017 Winner – Syrian Arab Red Crescent, Sofia / Bulgaria © Carton

沢山旅されている中で、これまでのベストダンボールナンバー3を教えてください。

1位がブルガリアの救援物資を入れるダンボールです。元々救援物資のダンボールが欲しいなぁと思っていて、ブルガリアの首都ソフィアの道端で偶然見つけました。レアなものなので、嬉しかったですね。2位はイスラエルのコカコーラのもので、ヘブライ語で書いてあるところが魅力です。3位はエディハド航空のダンボールです。元々旅を連想させる航空会社のものが好きなのですが、そこに海外を感じさせる異国の言葉が書いてあるところが良いですね。やはり中々流通していないもの、手に入らないダンボールは稀少性という面からも貴重です。
去年から「カードボード・オブ・ザ・イヤー」としてその年のベストダンボールの紹介もしています。

ダンボールを選ぶときの基準は何ですか?

ご当地性です。例えば、トルコであれば伸びるアイスクリームが入っていたダンボールなど、その国、そこの文化性が現れているもの集めています。その国の言葉が書かれていることは必須で、そういったダンボールはどの国でも必ず拾いますね。そのため、訪れる国もなるべくアルファベット以外の言語の国に行く事を考えています。
海外のダンボールは貴重なので、勿体無くて財布にはできないんです(笑)。ほとんどがコレクションになっています。
日本ではみかんのダンボールをよく拾います。地域性が現れていますし、イラストなどのデザインも可愛いです。また、街でダンボールを探していると社会の流れも分かるんですよ。ダンボールは流通や消費と密接に結びついていますからね。今はこのお店やブランドが流行っているというのが感じられて面白いですね。


Carton Workshop / ACE HOTEL PITTSBURGH, USA, 2017 © Carton

カルトンのプロジェクトはアップサイクリングの一貫として世界で注目されていますが、環境問題についてはどのように考えていますか?

元々ダンボール自体のデザインに魅了されたところから始まったため、環境問題を起点に考えたプロジェクトというわけではありませんでした。しかし、活動を続けていくにつれて、物を捨てない事、物を大切にする事を伝えていくという重要性にも気づかされました。ダンボールは本来リサイクルされるものですが、リサイクルをするという事自体も沢山のエネルギーを消費しており、リサイクルだけでは限界があります。それを解決するのがアップサイクルだったり、物を捨てないという考え方だと思います。
最近は中国にワークショップに呼ばれる事が多いのですが、若い中国の人たちは環境問題に高い関心があり、ワークショップへの注目度は高いですね。

ダンボール財布のプロジェクトの一番の魅力は何ですか?

まずはダンボールのデザインです。狙っていない、昭和を感じさせるようなレトロなデザインに惹かれます。そして、落ちているものに道で出会うという偶然性が魅力です。そのため、自分でダンボールのデザインをしてみたいとは思わないんです。
また、財布を使ってもらったり、ワークショップをしたりと直接コミュニケーションできるところが楽しいです。以前広告を作っていた時は、反応が分かりにくいため一方通行な感じがしていましたが、ダンボール財布は感想がダイレクトに届くのが面白みです。

今年12月7日には映画「旅するダンボール」(全国順次公開)が新宿ピカデリーほか全国順次公開されるので、ダンボールと旅に魅せられた島津氏の8年間の軌跡を感じてみては。

Text: Wakana Kawahito
Photos: © Carton

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