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上田義彦 写真集「68TH STREET」

THINGSText: Noriko Ishimizu

今年、日本は大変な猛暑に見舞われている。強い日差しに目を背けたくなるが、大抵光の存在を感じるのはこういった時だろう。光を扱う写真家の感受性を改めて気付かせてくれたのが、2018年5月に「ユナイテッドヴァガボンズ」から発売された上田義彦の写真集「68TH STREET」である。

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上田義彦写真集「68TH STREET」表紙

日本を代表する写真家である上田義彦氏は1957年兵庫県生まれ。福田匡伸、有田泰而に師事。広告写真やコマーシャルフィルムの第一線で活躍する一方で、写真作家としての表現活動を行っている。上田氏の写真と聞いて思い浮かぶのが、被写体を柔らかく淡い光を感じさせる「上田調」と呼ばれる光の表現。独特の色調を醸し出し、被写体が持つ強い存在感を示す。

作家として30冊以上の写真集を刊行し、様々な被写体を写してきた上田氏が、「68TH STREET」で撮影したのは一枚の紙。被写体は上田氏が住むニューヨーク68丁目のマンションの一室に差し込む一筋の光だ。

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〈68丁目にある、僕の小さなアパートの部屋には、晴れた日は、ある時間が来ると決まって、北側の窓から、美しい光が射してくる。その光は毎日、3時間くらいの間、部屋のあちこちに唐突に現れては消え、また現れて消える。部屋の中をめまぐるしく動く光をぼんやり見つめているうちに、この光を写真に撮ろうと思った。光は通りを挟んで向かい側にそびえるビルの窓ガラスに反射して、僕のアパートの部屋に落ちてくるのだった。ある日から毎日、白い紙に落ちてくる光と、その光と紙が落とす影を飽きずに撮っていた。毎日、夜にはプリントをし、昼の間、撮っていた。それを毎日、毎日、繰り返していた。〉(上田義彦写真集「68TH STREET」より)
これは同書の冒頭にある「小さい光の劇場」と題された、上田氏による文章の一節だ。

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上田義彦写真集「68TH STREET」より

写真集を開いて頭に浮かんだのは、キャンバスに絵の具で描くことで奥行きを表現していた絵画の支持体自体に切り目を入れたルーチョ・フォンタナの作品だ。対して刻々と変わる光が紙に落ちて造形したまるで抽象彫刻のように見える「68TH STREET」の作品の主役は光。刻々と変える光が作る陰影を、モノクロームの印画紙に留めた。アパートの窓に差し込む光が、紙の重なりやカーブによって強い影のラインと淡いグラデーションを造形する。紙の輪郭が切り取る漆黒の境界が美しい。

ページをめくり気付かされるのは光を追いかける写真家の姿。シンプルな被写体であるが、見れば見るほど深く、心の奥に入り込んでくる。

上田義彦 写真集「68TH STREET」
体裁:B4変形(360×254×23mm)、ハードカバー、クロス掛け、エンボス加工、フランス装、140ページ、4C印刷、シュリンク包装、バイリンガルテキスト
定価:10,000円(税別) 限定1,000部(国内書店販売は300部のみ)
編集・発行:ユナイテッドヴァガボンズ
販売代行:トランスビュー(03-3664-7334)
発売:2018年5月
http://www.unitedvagabonds.com

Text: Noriko Ishimizu

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