ディアン・チューク
PEOPLEText: Yoshiko Kurata
ディアン・チュークはニューヨーク在住のアートディレクターである。アートディレクションだけでなく、グラフィック、タイポグラフィー、イラストレーション、印刷物や動画などデザインのなかでも多様な分野で才能を発揮させている。以前は、「トキオン ニューヨーク」のアートディレクターでありながら「ヴォーグ」や「デイズト&コンフューズト」などの雑誌にも紹介されたことがある。また彼女は「NEOMU」というグラフィック・ジンの出版も手がけており、販売価格の1ドルは世界中の慈善団体へ寄付。今回はチュークに彼女の仕事やニューヨークのデザイン、クリエイティブ事情について話を聞くことができた。
Deanne Cheuk portrait by Heidi Yardley
まず初めに、自己紹介をお願いします。
ニューヨークでアートティレクターやアーティストとして活動しています、出身はオーストラリアのパースです。私の担当するプロジェクトは多岐に亘り、グラフィックデザインからアートディレクション、タイポグラフィー、イラストレーションなどをさまざまなクライアントに提供しています。また木炭で自分の作品を描いて展覧会もしています。
Lady With Tray, Charcoal on Paper
最新の作品について教えていただけますか?
最近は木炭を使ってサイケデリックな花をモチーフにしたドローイングを描き続けていますし、他にもヒューゴ&マリーというエージェンシーと一緒にタイポグラフィーのプロジェクトや墨流しの技法を使って新しい絵柄を作り出したりしています。
Minds, Mountain, Moon (Detail), sumi ink on paper
いつ頃からイラストレーションやデザインに興味を持たれましたか?
物心ついた頃からずっとですね。美しいものやアートには常に深い関心がありました。デザイナーとして仕事をするようになってからは、今まで見たことも無いような物や、今までとは違う感覚を味わわせてくれるような物に出会えるようにインスピレーションの”素”を探しています。
Lost In-Carnations, pattern design
19歳の時に大学を卒業されてそれと同時にアートディレクターとしての仕事も開始されましたが、最初の仕事はどのようにして見つけたのですか?
その頃は今のように「インターンシップ」という表現ではありませんでしたが、大学の最終学年の時にオーストラリア西部で発行されている「REVelation」という雑誌でインターンをしていました。卒業の頃に雑誌の出版社から「試しに1冊アートディレクションをやってみないか」と提案を受けまして、気がついたらそれから3年の間に13冊くらいのアートディレクションを行っていました。当時はまだ19歳だったので、それはもうたくさんのことを学ぶことができました。23歳の時には「MUマガジン」という雑誌を自分で発行できるようになり、3年程活動した後その雑誌は廃刊にしてニューヨークに移り、「NEOMU」という「MU」の新しいバージョンの雑誌を作ったのです。
Neomu covers, issues 1–8
Illustration from Neomu by Deanne Cheuk
雑誌「トキオン」の制作に関わっていた時と比べて、雑誌デザイン全般はどのように変わってきたでしょうか?
「REVelation」、 「MU」そして「トキオン」も全て制作コストも少なく、とても小さなチームで作り上げてきたので、とても自由度の高いインディペンデント雑誌でした。特に「トキオン」ではデザインに関してはかなり任されていたので、デザインするのも楽しかったですし、その楽しさが1ページ1ページに出ていたと思います。タイポグラフィーもストーリーが進むに連れて崩れていったり吹き飛ばされていってしまうような感じにしてみたり、時には手縫いで作ったり、水彩だったり、手書きだったり…その時やそれ以降でも他の誰かがやっていたこととは違うことができていたと思います。もうほとんどがデジタルに移行してしまったので、最後に買ったインディペンデント雑誌がどんなものだったか覚えていません。
Art Direction & Design of Tokion Magazine by Deanne Cheuk
Art Direction & Design of Tokion Magazine by Deanne Cheuk
Art Direction & Design of Tokion Magazine by Deanne Cheuk
Art Direction & Design of Tokion Magazine by Deanne Cheuk
Art Direction & Design of Tokion Magazine by Deanne Cheuk
「NEOMU」について教えていただけますか?
ニューヨークに越してきた時に今まで作っていた「MU」を廃刊にしてしまったのですが、何かを作ることは続けたかったのです。その時にデザインの本について考えていることがあって「本当に欲しい情報は1〜2ページだけなのに、1冊50ドルかそれよりもっと高く、なぜ全ページが素晴らしい本を無料や安価で誰も作らないのだろう」と思ったのです。それ以降はその思いをマニフェストとして、利益や出版について常識となっていた考え方を覆していきたいと思うようになりました。まずは印刷会社に掛け合い、(実際にはそうでは無かったのですが)一番安くなるように一番小さいサイズで上製本してもらえる冊数を教えてもらい、「MU」のメールマガジンに登録していた人や知人達宛に作品募集していることをメールで知らせることがスタートでした。合計8冊をまとめることができてお店に無料で配布。店では1ドルで販売をして頂き、売り上げはそれぞれが選んだ慈善団体への寄付を依頼しました。インスピレーションの連鎖をイラストレーターやアーティストからまず私に、お店からお客さんへ、そして慈善団体へと繋げて行くことが目的でした。本当に正直な気持ちからきたものだったので、それが伝わって成功をおさめることができたのだと思います。販売価格を何故1ドルにしたかというと、そうしないと誰か一人が何部も持って行ってしまうかもしれないと考えたからです。たくさんの人から「1冊1ドル以下なんてどこで印刷出来るのか」との問い合わせメールを頂いたのですが、利益をあげることが目的ではなかったので、実際のところ1冊印刷するのに約4ドルかかっていました。信託資金なども無く、正社員として広告会社に勤めてながらフリーランスやデイビット・カーソンのアシスタントをしていましたので、つまり3つの仕事を掛け持ちしてこのプロジェクトの制作や他のプロジェクトの場合も費用を全てまかなっていました。
Illustration from Neomu by Deanne Cheuk
いろいろな作品を制作されてきましたが、中でもデザインで一番大切だと考えていることは何ですか?
真新しさです!
Type commission for Vogue.com
自身の制作のインスピレーションはどこから得られていますか?
プロジェクトによりますが、商業向けのプロジェクトの場合はそのプロジェクトの信念からですし、個人的なプロジェクトはいろいろな所から得ていて、本当に、影だったり何かの形だったり音だったりします。
Big Crystal, Charcoal on Paper
お気に入りのアーティストは誰ですか?
たくさん居過ぎますね!でもお気に入りのアーティストは、私の夫クリス・ルビーノです。
ニューヨークのクリエイティブ事情は今どのような感じですか?
ニューヨークはクリエイティビティーと面白いもののるつぼで、いつもどこかで何かが起こっているのでついて行くのが大変です。音楽、アート、デザイン、カルチャー、若い人も年を重ねた人も—どんな人でも必ず楽しめる何かがあります。
次のプロジェクトはもう決まっていますか?
2015年の4月10日から5月3日までロンドンで行われる「Secret 7」という展示にオリジナルの絵を出しましたし、日本だとガスアズ・インターフェイスと一緒に行う「T by GASBOOK」のオンラインストアのプロジェクトもあります。
T by GASBOOK
読者へ何か一言お願いします。
私のインスタグラム(@mrdeannecheuk)で最新の作品を公開しています。
Mushroom Children, Charcoal on Paper
Text: Yoshiko Kurata
Translation: Mayuko Kubo