アイ・ウェイウェイ「アット・ラージ 」

HAPPENINGText: Fuyumi Saito

サンフランシスコの国立公園の一つであり、特有の潮の流れを持つ海に囲まれた孤島であることから脱出不可能な監獄島(ザ・ロック)として、1963年までアメリカ中の極悪犯罪者が送り込まれたアルカトラズ島。現在は刑務所施設の跡地見学や島特有の植物や鳥の観察できる公園として毎日観光客が多数訪れている。このアルカトラズ島の施設跡地を舞台に、中国人アーティスト、アイ・ウェイウェイのアートプロジェクト「@Large」(アット・ラージ)が展開されている。

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“Yours Truly”, Photo: Alison Taggart-Barone, Parks Conservancy

アイ・ウェイウェイは1980年代より、建築やインスタレーションの現代アート作品を世界各地で発表し続ける一方、2008年5月の四川大地震で多くの学生が校舎の下敷きになり死亡した事件で、家族の抗議を中国政府がはねつけ、被害の全貌も明らかにされていない事実を受けて、彼のブログを通じて実態調査を行うプロジェクトをスタートした。これをきっかけに2010年に中国当局から軟禁、その後彼のスタジオに脱税容疑がかけられ、拘束される身となるなど、体制と闘いながらも積極的な社会活動を行っている。彼の作品からは毎回、そうした活動ともリンクする政府や政治、現代社会への疑問や批判のメッセージを読んでとることができる。
 
彼は釈放された今も、国外へ出ることを禁じられており、今回のアルカトラズ島での展示も、彼は実際にアルカトラズ島を訪れることができないまま、北京のスタジオで制作が進められた。この展示を訪れる人々は、実際の刑務所施設の壁や床、その空気とともに、アイ・ウェイウェイが訴えるメッセージを体感することになる。「自由」とは、「正義」とは、人々の「権利」と「責任」とは…?アルカトラズ島を実際に訪れることのできない彼自身の強い思いが、監獄施設という環境の中で、よりリアルな想像や共感をかき立てる。

ニュー・インダストリアル・ビルディングは、第二次大戦の最中、囚人たちが軍人たちの制服の洗濯や政府が使用する靴や衣服、海軍が使用するネットの制作を行っていた場所である。ここでは、「ウィズ・ウィンド」「トレース」「リフラクション」の3つの展示を見ることができる。

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“With Wind”, Photo: Ryan Curran White, Parks Conservancy

色鮮やかな中国の伝統的な凧が天井から吊るされている。迫力ある龍の凧「ウィズ・ウィンド」が入り口で迎える。神話的な力を持つとされる龍は、帝国の権力を示すようにも捉えられるが、アイ・ウェイウェイはむしろ個人が持つ自由を表現しているという。「誰もがこの力を持っているはず」と。龍の長くうねる体は一つ一つの凧で構成されており、そこには、ネルソン・マンデラやエドワード・スノーデン、そしてアイ自身など、投獄されているまたは亡命中の活動家の発言が記載されている。

龍の他にも、植物や鳥と言った自然をモチーフにした凧が天井に並ぶ。人に操られ舞う凧からは、市民の人権や自由が何者かにコントロールされてきた、そんなメッセージを感じることもできる。囚人たちが監獄を出て作業できる場、しかし実際には監視のもと単一作業が延々と続くこの施設を舞台に、「凧=空を飛ぶ自由のイメージ」対「制限された世界」、「伝統的な凧=国文化の誇り」対「国の恥」といった矛盾が表現されている。

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