アントニ&アリソン
PEOPLEText: Sayaka Hirakawa
買わないで、今だに後悔している一枚、というのが、きっとだれにもあるのではないだろうか。わたしの場合、アントニ&アリソンの数年前のコレクション、精密に描かれた2匹の猫を配した明るい色のコットンのスカート。バスケットに座った毛長の猫がまっすぐこちらを見ているそのプリントを今でもはっきりと悲しい気持ちで思い出すことができる。
その、ファッションデザイナーデュオ、アントニ&アリソンが、ワークプレイスを公開しての写真展を開催するというので、週末サザークにある彼らのアトリエを訪れた。
アントニ&アリソンは、20年前にセントマーティンで出会い、それ以来ファッションデザイナーとして、またアーティストとして共に活動している。フォトグラファーとしてはそれぞれ独学で、常に自然光での撮影を好む。「The house of Mr. &Mrs. Antoni & Alison」は、彼らの10年に渡る作品を紹介する。
1820年代に建てられたという4階建てのアトリエは、ブーツセールから集められて来たやさしい風合いのアンティーク家具や、ビートルズの「ABCシアター」のドレッシングルームから来たと言う赤と緑の椅子などで、とても居心地のよい雰囲気をつくり出している。新しいものではなく、それ自体ヒストリーのあるもの、だれかに大切にされてきたものには何か特別な力があるような気さえする。そこからインスピレーションを得ることも、彼らの作品に影響を与えているのだろう。実際、2006春夏のアントニ&アリソンのコレクションはこのアトリエの建てられた1820年代のファッションがベースになっている。
ベースメントから始まるこのフォトコレクション、スパンコールをいっぱいにピンナップされたソーセージ、50年代のファブリックの上に置かれたクラッカー、彼らのアトリエが建てられた時初めに使われたブリックにピンクのリボンをかけて、ヴェロニカ&レイクのとなりにおかれたフライドエッグ、マスターピースの上に置かれた食べかけのサンドイッチ。二人の写真には、くすりと笑ってしまうおかしいもの、彼らがとても大切にしているであろうと感じられるもの、どこか奇妙で首をひねってしまうもの、それらが、彼らの好きなものの集められたその空間にぴたりと一致していた。
生活の中にある大切なものを撮る、ということ。そこに写っているのは、感情を持つ人ではないのだけれど、そこには確かにメッセージがある。大切に思う理由があり、インスピレーションとなる理由がある。それはどれもポジティブなイメージで、写真を撮る、ということを、宝箱にいれる、かのような使い方、遊び方をしている彼らのスタンスを、うらやまないでもない気持ちにさせられる。
The house of Mr. &Mrs. Antoni & Alison
住所:80 Southwark Bridge Rd., SE1 0AS London
https://www.antoniandalison.co.uk
Text: Sayaka Hirakawa
Photos: Sayaka Hirakawa