第18回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

今年のメディア芸術祭において、インタラクティブアートを鑑賞している人の、驚いたり、笑ったりする様子が多見されたことは、特に印象的に感じられた。なかでもアート部門で新人賞を受賞したアレックス・ヴェルヘストの「Temps mort / Idle times – dinner scene」は、独特な雰囲気があった。

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Alex VERHAEST 「Temps mort / Idle times – dinner scene」展示風景 

その作品は、大きなモニターに古典的な絵画様式で表現された家族の風景が映し出され、さらにその周りには家族一人一人が映し出された複数のモニターがあり、それら全てが一つの物語として構成されている。大きなモニターの前には電話番号が掲示されており、鑑賞者がモニターの前で電話をかけると、作中に描かれた電話が反応し、それをきっかけに映し出された家族の会話が始まる。鑑賞者が作中の家族に電話をかけるというインタラクティブな行為により、鑑賞者が作中の家族の一人と関係を持っている感覚をもつ。あたかも自分発信で始まった作中の家族の会話が、妙に他人事と思えないものとして感じられ、当事者となった鑑賞者は不思議な世界へ入り込むことになる。

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Google’s Niantic Labs 「Ingress」展示風景

エンターテインメント部門で大賞を受賞したのは、Googleで社内企業したプロジェクトである、Google’s Niantic Labs(ナイアンティック・ラボ)の「Ingress」。この作品は現実世界における観光スポットや建築物、近所の公園など、実在する場を利用し、世界中のユーザーが同時参加して陣取り合戦を繰り広げるモバイルアプリケーションである。

今回の展示では、3つの「ポータル」と呼ばれる陣取り合戦を行うポイントをメディア芸術祭が開催されている国立新美術館内に設定し、ユーザー(ここでは鑑賞者をユーザーと呼ぶことにする)がそのポータルを取り合う様子がインスタレーションとして、展示空間に表示される。展示空間に入ると、ユーザーは作品自体を見ているというよりは、自分のスマートフォンを見てまさに「Ingress」を楽しんでいる最中であり、ユーザーが展示空間で作品を楽しんでいる姿こそが、この作品の展示を補完している感じを覚える。このアプリケーションを利用していない筆者にとっては、ユーザーが展示空間にいればいるほど、展示作品が鮮やかに見えてくる様子が俯瞰して見えて、とても印象的だった。

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