第17回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Noriko Yamakoshi

エンターテインメント部門の大賞は「サウンド・オブ・ホンダ/アイルトン・セナ 1989」。電通の菅野薫、メディアアーティストの真鍋大度ら総勢8名によるこの壮大な再現インスタレーションプロジェクトはホンダのエンジニアによって記録された走行データからセナのエンジン音を再現しようとの発案から生まれた。会場内ブースでは1989年のF1日本グランプリ予選でアイルトン・セナが樹立した世界最速ラップの迫力のサウンドとLEDを駆使した美しい映像が体験できる。

DSC_6379.JPG
「サウンド・オブ・ホンダ/アイルトン・セナ 1989」展示風景

映像作品やそのプロセスの紹介展示が多い中、エンターテインメント部門優秀賞を受賞したこの池内啓人の「プラモデルによる空想具現化」は異彩を放っていた。個人の記憶を保存する建物としてパソコンを捉え、パソコンはその記憶を守る為の要塞として、マウスは防衛用戦車としてその要塞周辺を縦横無人に動き回る。日常で使用しているガジェットを自由な空想でジオラマ化したこの作品では有用と無用が入り交じりながらも構成する電子回路や配線などは破損されずに保たれており、本来もつ機能や特色の可能性も浮き彫りにされている。

DSC_6339.JPG
池内啓人「プラモデルによる空想具現化」展示風景

同じく優秀賞に選出されたトム・リグルスワースとマット・ロビンソン(イギリス)による、劇メーション「燃える仏像人間」(宇治茶)、スコットランド出身バンド・トラヴィスのミュージックビデオ「ムーヴィング」は共に現行の技術に敢えてアナログな手法を組合わせることで作品メッセージを生み出している。

DSC_6257.JPG
トラヴィス「ムーヴィング」展示風景

CGを一切使わず制作されたこのMVは、-1℃に設定されたスタジオにバンドメンバーが集まり、最も鮮明な映像を求めて何百というバージョンの白い息が試されたという。そしてそれらがこのアニメーションの投影スクリーンとして使用されている。彼らの目の前に吹き出された輪郭の曖昧な白い影は生き生きと走り、転び、歌い、時に光源をボールに見立て戯れながら、その内省的且つポップな歌詞の世界を体現している。

『投影されるアニメーションはそのどれもがシンプルで最小限であるが、その全てのアイディアは、人が息を吐くという行為や白い外気の移ろいという、この状況自体の豊かさを引き出すことに捧げられている。』(審査委員・中村勇吾)

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
デッドウッド
MoMA STORE