フンボルト・ラブ・ダーレム「玉座のゲーム」展

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

建物の一室に集められたのは「玉座のゲーム」の展示物。ただし民族美術やアジア美術の展示物ではない。展覧会のために制作された現代アートの作品だ。部屋の片隅には光と闇に彩られた美しい空間が広がっている。展示されているのは出品アーティストの一人、クリスティーネ・レプストーフによる様々な形の照明。

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Kirstine Roepstorff “Daughters of the Immortal Mother” 2013, Mixed media installation, Humboldt Lab Dahlem, Probebühne 2, Project “Spiel der Throne” © Staatliche Museen zu Berlin, Photo: Jens Ziehe, Courtesy Studio Roepstorff, Berlin

例えば一つの照明では、明かりを覆う幾重にも重ねられた形態が、壁や天井に美しい影を作り出す。展示室に生み出されたのは幽玄な世界。だが作品は美しさを見せるだけでなく、中国での照明が持つ社会的な役割を伝える。死や誕生といった社会的な出来事を伝えるそこでの明かりの意味を取り扱い、文化の一片を美しく垣間見せるのだ。ここでは中国独自の文化を現代的な解釈によって目に見えるものとしていた。

展示室を歩いていくと中国の玉座の間が見えてくる。アジア美術の展示室に紛れ込んだと錯覚するが、どこかおかしい。玉座の前には不必要に多くの手すりが取り付けられている。この異様な空間を作り出したのはデザイナーのコンスタンチン・グルチッチ

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Konstantin Grcic “migong” 2013, Mixed media installation, Humboldt Lab Dahlem, Probebühne 2, Project “Spiel der Throne” © Staatliche Museen zu Berlin, Photo: Jens Ziehe

無数の手すりによって迷路が生まれ、玉座へは容易に近付くことができない。手すりは作品への接近を妨げ、同時に人々の動きをコントロールする。だが作品は来場者と展示物の関係のみを意味するわけではない。権力を持つ者が守られ周りにいる者が混乱するように、統治者と民衆の関係でもあるのだ。玉座はまさに管理と支配の象徴。もちろん現在も変らぬ中央集権的な政治への批判ともとれる。この点で言えば、ヨーロッパから見た中国の特殊性を気付かせる作品となっていた。

異文化を紹介する展示は時として視点の偏りが見られ、場合によっては異国情緒を伝えるだけで終わることもある。だが「フンボルト・フォーラム」にそれを危惧する必要はないだろう。ここでは中国の内部からの視点を用意し、多角的な視点を生み出す。中国人アーティストのシャオ・シャオは展覧会でその役割を果たしていた。

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Zhao Zhao “Waterfall” 2013, Mixed media installation, Humboldt Lab Dahlem, Probebühne 2, Project “Spiel der Throne” © Staatliche Museen zu Berlin, Photo: Jens Ziehe, Courtesy Alexander Ochs Galleries Berlin | Beijing

彼が見せたのは赤いパラフィンワックスをかけた玉座。それは真っ赤な血しぶきを浴びているようにも見え、権力が持つ暴力的な力を露にする。また作品の横にモニターを置き、インターネット上に書かれた彼の作品への反応を読めるようになっている。現在中国ではインターネットに検閲が入り言論の自由が制限されているという。そこで同国からアクセスが可能なページを用意して、自身の作品に対する自由な場を作り上げた。ここで感じられるのは自由を妨げる強力な権力。同時に中国で現在起きている問題が何であるかを強く印象付けていた。

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