ユージニア・リム

PEOPLEText: Joanna Kaweckia

メルボルンに拠点を構えるアーティスト、ディレクターそして編集者といった様々な分野で活動するユージニア・リムほど興味をそそられる人物はそうそういないだろう。彼女のように、いくつもの異なる仕事をこなすのは至難の業だ。個性的な仕事や独創的な考え方を強く求め続け、周囲の魅力的な人々や自らの過去に対する率直な意見によって彼女のインスピレーションは形成されているようだ。

彼女が抱く創造的知性は、複数の驚くべき作品やプロジェクトとして彼女が参加するオンライン・マガジン「アセンブル・ペーパーズ」を通して世界中の読者へと伝えることで表現されている。さらに、発展途上にあるオーストラリアのビデオ・アート・フェスティバル「チャンネルズ」のディレクターとして、真の連結性と才能をキュレーションによって橋渡ししている。

Eugenia Lim
© Quino Holland

パフォーマンス・アートを行う際にいつも前向きな彼女は、まず予想されたものから出発し、その後は映像や写真、インスタレーションといった媒体を通して独自の前進的な考え方を進めていく。過去に行われた「ステイ・ホーム・サコク:ひきこもりプロジェクト」(2012) では、ユージニアが実社会から1週間離れて5平米のギャラリースペースで生活し、他の人から食べ物や生活に必要なものを恵んでもらうというパフォーマンスが展開された。

空想的で、魅力的なユージニアは他に比する者がいない。

あなたがオーストラリアで育った経験について少しお話し頂けますか?この体験がアートへの情熱にどのようにして影響しているのでしょうか?

私は医者、そしてオーバーアチーバー(中華系シンガポール人に特徴的)家系の生まれです。両親は私が生まれる10年ほど前にオーストラリアへ移住し、その後さらにメルボルンに移住し、私も以来この地に住んでいます。居心地は良いのですが、人種や国籍については常に頭の片隅にありますし、この主題に関しては作品でも表現し続けています。

3人姉妹の末っ子で、思春期の頃は悪ガキでした。アートへの愛情や違う手法で表現しようとするやり方は、この十代の時期に育まれたものだと思います。反抗心を表したり、協力的だけど厳格な家庭や白人ばかりの地域や社会の中で、自らの意見を表現しようとした結果ですね。明らかに不安を抱えていました。

アートに出会ったのはまさに音楽、それから執筆や詩のおかげです。当時は地元のインディーズやパンク、さらにグランジ音楽にはまっていたのですが、その頃はケンタッキーフライドチキンで週に50ドルの給料で働いていました(つまりCDが2枚買える金額ですね)。ターゲットという量販店の面接に、カート・コバーンみたいな(ごくありふれた)ニルヴァーナのTシャツとアンゴラのカーディガンを着て行ったのを覚えています。

グランジにはまっていたこの頃に、一番の幼馴染であるエイミーと一緒にファンジンを出版して、大好きだったバンドに次々とインタビューしていました。当時は、ほのぼのしていましたね。それで、文章を書いたり写真を撮ったりしてジャーナリストかグラフィックデザイナーになるのかなと思っていたのですが、私は人に頼まれて仕事をするのが嫌いで、言語や思考、外観といったものの(むしろ事実というよりも)相違の方が面白いことに気付いたのです。

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© Eugenia Lim

そうですね!そしてそれはあなたの魅力的な過去のおかげでもあるのですよね。ロードアイランド州で勉強して、制作活動を続けるためにオーストラリアに戻ってきたという…

生まれてからずっとメルボルンで過ごしてきて、視野を広げるためにも別の状況の中で生活したり創作活動を行ったりする必要がありました。どういうわけか、ドイツや日本に行く代わりに、また別の英語圏の国に行ってしまったのです!ロードアイランド・スクール・オブ・デザインについてはあまり知らなかったのですが、そんなに悪くなさそうだったのと、ニューヨークにとても近かったのがすごく魅力的に感じたのです。

ニューヨークに行って友達数人と一緒に居た時、あの美術学校はアメリカ国内でも最高峰のうちの一つだって教えてくれたのです(予想外のおまけでした!)。そこで過ごした時期は私にとってとても大きく、様々な成果がありました。自分自身が望む生活を送り、異質感や場違いな感じを抱きながらも、他人と違うことを楽しんでいました。この時に初めてカメラ上でのパフォーマンスを試し始めました。

交換留学生だった私はクラスに知り合いがいませんでした。彼らが判断材料としたのは私が制作したビデオや写真作品であり、もちろん私の外見でもありました。最初はすごく恐ろしかったのですが、時が経つにつれて自分自身を映像の中で作り出し形成することが、非常に解放的に感じられるようになりました。アメリカ滞在時の作品や試みは非常に成長的であり、現在の作品にもその時の影響が現れていると思います。

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