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オープンリールアンサンブル

PEOPLEText: Yu Miyakoshi

それは和田さんが作った言葉ですか?

和田:最初は言い間違えただけなんですけど。エレクトロニクスというものに、祭り的な汗臭さと、人間臭さが入ってる、それが「エレクトロニコス」。ニクスかニコスかで、人間が道具と対決しながら、更に創造的に使い倒そうとする、そういう攻防みたいなものが繰り広げられているイメージもあったりして。

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コンサート・ホール「ブルックナーハウス」で行われたアルス・エレクトロニカでの一幕(オーストリア 2011) © rubra4

ライブで聞いているだけだと、どうやって演奏しているのかよくわからないのですが、オープンリールでどのように演奏しているのですか?

難波:オープンリールはその場で録音して、その音の時間軸を歪めたりっていうのが結構直感的にできるんです。

和田:その場で音や声を録音して、テープが巻いてあるリールの部分を手で触って回すことで、レコードでいうスクラッチのようにリズムを作ったり、テープを物理的に振るわせて音を加工したり。曲によってはコンピュータを使って動作を反復させたり。スイッチを高速でオン・オフさせたり。あらかじめ音が録音されているリールや、その場で音を録音するリールがあって、それぞれの回転のタイミングやスピードをとにかくパズルのように組み合わせて、演奏しています。回転と音とがリンクしていて、特に高速で回っているのを見ると、興奮しますね。でも、演奏中にテープが切れたりすることも多々ありました。今はこれ以上はやばい、っていうのが分かるようになったので、ほとんど起きなくなったんですけどね。

和田:佐藤君なんかトラウマがいくつもあるよね。テープがひっくり返ったり。

佐藤:そうなったらテープを一回はずして、ねじりを戻してまた付けて、っていうことを演奏中にやるんですよ。

難波:あとは、トラブルの根源というのがテープだけじゃないんですよ。自分たちで作っている基板を演奏中に破壊してしまったり。ライブ中にハンダ付けしたこともあります。今は改良して取り外しを簡単にしたので、壊れたところだけ外して新しいもの刺せばいいんですけど、それができなかった頃、ライブ中になんか焦げ臭いな、と思ったら煙が出ていて、佐藤君がライブ中にハンダ付けしてたんです。

佐藤:あれはパフォーマンスの一環ではないですよ、もちろん。

和田:あれ、またやってよ。(笑)

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公演終了後のオープンリールデッキ。和田さんいわく「メディアを引きちぎり、引きずり回し、引っ掻き鳴らす、とはこのこと」© a.kold

パーカッションは生楽器として使用されているのですね。

吉田(悠):そうですね、パーカッションとベースは楽器としてあります。

難波:リールはギター、キーボードみたいなところです。

和田:変わったりもするんですけど、ライブ感もあって、その編成でパフォーマンスすることが今は多いですね。

便利な機械やシンセサイザーがある中で、オープンリールにこだわるのは何故ですか?

吉田(悠):その理由をさかのぼると、最初にリールを触った時かもしれないです。

和田:そう、壊れたオープンリールを手で触って変な音が出たっていう体験がずっと積み重なっていて。僕はもともと自然科学が凄い好きなんですけれど、オープンリールはシュミレーションじゃなくて、お風呂で「あー」と言ったら反響するような、物理現象としての面白さがあるように感じたんです。それは必然的なもので、どこか生楽器的なんですよね。弦を弾いたら音が出る、みたいに。特徴が顕著に現れるのはやっぱりエラー音の時なのかなあ。レコードの針飛びにあるビニールと針らしい音色とか、デジタルのグリッジにある非連続的なノイズもそうなんですけど、そういうメディア自身が持っている正常じゃない時の音って固有で、表現っていうことになると、更新されない価値があるのかなって。不便なんですけど、オープンリールにしか出せない不確定要素と人間の身体性との親和性というか、それによって生まれる世界というか、そういった部分に惹かれるんだと思います。でも、こだわりというよりは、やっぱり単純に楽しいからからなあ。

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