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アイ・ウェイウェイ展「ヒマワリの種」

HAPPENINGText: Yumiko Isa

現代中国を代表するアーティスト、アイ・ウェイウェイの展覧会「ヒマワリの種」が、ロンドンの現代美術館テート・モダンにて現在公開中だ。コンセプチュアルな作品で知られる彼だが、美術のみならず建築、デザイン、出版、展覧会の企画まで多岐にわたって活躍している。北京オリンピックではヘルツォーク&ド・ムーロンと共にメインスタジアム「鳥の巣」の設計に芸術顧問として関わっており、日本でも2009年に森美術館で展覧会が開かれた。

アイ・ウェイウェイ「ヒマワリの種」
The Unilever Series: Ai Weiwei, Sunflower Seeds 2010
©Tate, London, 2011 © Ai Weiwei

この作品「ヒマワリの種」は、1億個以上のヒマワリの種を、同館タービンホールの床1000平方メートルに敷き詰めたもの。種は本物そっくりに見えるが磁器でできたフェイクである。中国の北京からおよそ1000km離れた江西省景徳鎮市にある小さな工房で、一つ一つ人の手によって着色された。この景徳鎮は非常に古くから続く伝統的な陶磁器の町であり、1億個の種は1600人の人達が約2年半の歳月をかけて制作された。

展示脇のブースでは作品のメイキング映像が流れていて、種子が作られていく過程や、工房で働く人達とアーティストとのやりとり等を見る事ができた。その映像を見終わった後、ぎっしりとホールに敷き詰められた膨大な数の種子を見ると、一つ一つ全てが誰かの手で作られたものだという思いに胸が熱くなる。

アイ・ウェイウェイにとって、ヒマワリの種はとてもパーソナルな意味をもつ。それは(中国では)日常的なスナックであり、毛沢東の大躍進政策が引き起こした大飢饉の中、比較的簡単に手に入った食べ物であった。また、一つ一つ手作業で作られた、微妙に大きさや形が異なる磁器製の種子からは、それまでの「メイド・イン・チャイナ」の大量生産にはない作り手の個性を感じる事ができる。何より「圧巻」と言える景色に、しばらく見とれてしまうのは間違いないだろう。

展覧会のもうひとつの楽しみ方として、アーティストとのオンラインディスカッションがある。ツィッターのユーザーでもある彼は、観客と直接コミュニケーションする事を大切にしている。ホール内に設置されているブース内では、彼に作品の感想や質問など、直接ビデオメッセージを送る事ができる。送られたメッセージはテート・モダンのウェブサイトに随時アップロードされる仕組みになっており、いくつかの質問にはアーティスト本人がちゃんと答えを返してくれるというのが嬉しい。

この展覧会の当初の目的は、種子の上を歩いたり触ったりして体感できるインスタレーションだったが、公開して間もなく、来場者が種子を踏んで歩く事でホール内に大量のほこりが舞い、健康被害を引き起こす恐れがあるという理由で、作品内への立ち入りが禁止されてしまった。まだ作品が立ち入り禁止になる前に見に行った友人によると「本当によくできていた」らしいので、もう実物を手にとって見られないのがとても残念だ。

一方、社会評論家としても活発なアイ・ウェイウェイの活動は、しばしば中国政府との衝突を起こしている。上海に建てた近代的なアトリエは、完成直後に政府から「違法建築だ」とクレームをつけられ、強制的に取り壊しを命じられた。しかし本人も黙ってはいない。その抗議として取り壊し前夜に“カニパーティ”をやるとネット上で呼びかけ、集まった参加者に10,000匹の上海ガニを無料で振る舞った。中国語の“蟹”の発音は“調和”とほぼ同じ。一向に進まない貧富の格差の是正や、独裁政治をやめない政府を皮肉った大宴会というわけだ。政府からの圧力にも動じる事なく、自分の主張を世界に向けて発信し続けるアイ・ウェイウェイの活動に今後も注目したい。

The Unilever Series: Ai Weiwei “Sunflower Seeds”
会期:2010年10月12日〜2011年5月2日
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜日22:00まで)
会場:Tate Modern
住所:Tate Modern, Bankside, London SE1 9TG
TEL:+44 (0)20 7887 8888
http://www.tate.org.uk/modern/

Text: Yumiko Isa

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