ドリス・サルセド「シボレス」展

HAPPENINGText: Waiming

ひび割れた床を歩きながら全身のシステムが一斉に動き出した!高所恐怖症を克服するのに、落っこちる危機を避けるのに、私の両足と心臓が互いに激しくもがき合う。私の脳は、しきりにこれは現実じゃないんだと自分にいい聞かせながら。このインスタレーションは、計り知れないほどの影響をある程度は引き起こしただろうか? 間違いなく答えはイエスだ!

シボレス展

1958年生まれのコロンビア人彫刻家、ドリス・サルセドテート・モダンの床を167メートルに渡り、ジグザグにした作品だ。4月初旬に終了したこの展覧会にもたらしたものは、大ホールのひび割れ、そのコンクリートフロアには髪の毛の細さのかなり細いひび割れだ。そしてそれは横に、奥にと部屋をくねくねと横断している。開いた空洞の中を奥深くのぞき込むと、その断面両側は国境を閉鎖し、群衆をコントロールするのに使用されるワイヤーメッシュで覆われていた。

シボレス展

しかし謎めいた印象はここで終わらなかった。このひび割れにはとても重要なメッセージが込められている。この彫刻家によると、これは人種差別に対する声明で、ひび割れのギャップが示すものは欧州の白人とそれ以外の人類だ。線を分けているワイヤーメッシュは境界線を表し、それは移民としての体験、人種差別体験、人種的憎悪体験などの境界を表現しているという。それは不法移民が占有する(ネガティブイメージ)というネガティブな部分だ。

シボレス展

私の中でもざわざわと暴れ出した、別の謎めいた趣旨の側面にあるのものは人道的問題だ。巧みに精巧に作られたインスタレーションは、私たちの年齢やバックグラウンドに関わらず、その問題への根本的な関心を高める。私たち社会の傷跡を抱え、それは世界のどこでも毎分のように起こっていることなのだ。私の周りにバラバラと散在する人々を見ながら、私はそこに立ち、ちっぽけな自分を感じた。何かを一緒にできることがあれば、そしたらひび割れの修繕をすると。この作品の彫刻家は私たちにそうしてほしいと願っているのか? それはわからないし、どのようにしてインスタレーションされたのかというのも不明だ。

「シボレス(Shibboleth)」という言葉はもともと聖書からきていて、ある民族が発音できる言葉だ。発音すること自体がテストみたいなもので、敵から友達を隔てるのにその真偽を探る為に用いたようだ。

ホールを後にするにつれ、私の心臓はかつてないほどに激しく急襲された。もしあればの話だけど、他の言葉による第2弾「シボレス」が作り出すポジティブなひび割れを楽しみにして待とうではないか。

亀裂

Doris Salcedo “Shibboleth”
会期:2007年10月9日〜2008年4月6日
会場:Tate Modern Turbine Hall
住所:Bankside, London SE1 9T
TEL:+44 (0)20 7887 8888
http://www.tate.org.uk

Text: Waiming
Translation: Mariko Takei
Photos: Courtesy of Tate Modern © Doris Salcedo

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