ウィルオービイ・ウィンドウ・プロジェクト

HAPPENINGText: Katherine Lorimer

昨年までニューヨークの街では不動産ブームが果てしなく続いていくように思われていた。特にブルックリン地区は顕著に市場がまだ上がり続けると予見した現金主義なディベロッパーの恰好な舞台となる。「高級集合住宅」はその地域の環境への配慮に欠けた規模やスタイルで建設が進められ、数億円の値札が付いた「ライフスタイル・リビング」という名の誘惑に駆られる買い手を心待ちにしていた。不動産市場の崩壊を境に、ディベロッパーの夢物語は足下から消えてなくなり、その結果として行き詰まった建設プロジェクトが完成を待たずに放棄されるかたちとなった。空室の店舗物件や建設中の区画、足場材料が街の景色にネガティブな印象を与え、既にニューヨークの高級住宅化の悪循環に苦しむ地域に新たな都市の無秩序化という名の足枷を負わせるかたちとなった

WILLOUGHBY WINDOWS

ウィルオービイ・ストリートもまたブルックリンのダウンタウンに位置する荒廃した区画の一つ – 店舗が立ち退いて1年以上が経ち、表面上は新たな開発に向けて取り壊しを待つ準備段階のように映る。商業スペースはシャッターが下りたままで、暗くて空っぽであった… 7月の上旬までは。メトロ・テク・ビジネス・インプルーブメント・ディストリクトの協力の下、アドホック・アートギャラリーが特別に店頭を利用した展示会を企画したのだ。アドホックのギャリソンとアリソン・バクストンの呼びかけに応えるかたちで、ニューヨークの名立たるアーバンアートを携えた参加者が善意で彼らの時間と卓越した技術を店頭のウィンドウデコレーションに注ぎ込んだ。規格外れのステンシルを用いたロガン・ヒックスクリス・ステイン、身の毛のよだつ版画技術を持ったキャノンボール・プレスデニス・マクネット、チョークインストレーション写真でお馴染みのエリス・ジー、色彩の富んだグラフィティスタイルを持ったサイクル、そしてファイバーグラスを使った実物大の鋳物彫刻を制作したジョン・エーハーンといった顔ぶれで、彼ら独自の手法は計12カ所の店舗ディスプレイを彩った。

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このウィルオービイ・ウィンドウ・プロジェクトの基本的意義は市内で放置区画になりがちな地域に必要不可欠な活力と肯定的な生気を注ぎ込むこと。ディベロッパー側の空き店舗の有効利用として通俗的になりつつある方法として、店舗全体を「ラッピング」することで広告スペースとして貸し出すこともできた。ウィンドウディスプレイに代表される積極的な屋外広告は時に周辺を美しく彩ることもあるが、往々にして公共スペースに特有の視覚汚染となりがちである。今では耳にすることもなくなり意味もなさなくなったグローバルキャピタリズムが叫ばれた先の10年余の後、一時的ではあるが文字通りアートに導かれた空間に出会うことは斬新であり清新に感じられる。この店頭アートは昼夜問わずいつでも楽しむことができ、およそ1年のあいだ、若しくは次の開発の着工まで続けられる予定。また、数ヶ月後には第2ラウンドとして新たなアーティストグループによるインストレーションへ入れ替わる模様である。

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願わくば、このプロジェクトが同様に利用されていない店舗スペースを抱えた地域や街へのインスピレーションとなることを望んでいる。ちょっとした創意工夫が大きな可能性を実現する。キュレータのマイティー・タナカはつい先日テンポラリーのポップアップ・ギャラリーでの展示が成功裏に終了したばかり – マンハッタンのあの賑やかな14丁目に面した新たな空き店舗スペースのこれ以上賢い利用法があるだろか?こういったかたちの都市再生プロジェクトは投資のサポートを得てさらに大きな規模で実現することが理想である。人々が仕事に戻る手助けとなり、コミュニティーにとって価値のあるアートの創造を添えるとともに本当の意味での生活環境の改善に貢献していく手助けとなるような展開を図ることができるであろう。コミュニティーが一体となって創造的な解決策を探った時には、不景気の中でも魅力的なものが生まれだす。

Text: Katherine Lorimer
Translation: Yoshitaka Futakawa
Photos: Katherine Lorimer

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