ベルリン・ナイト・クラブ
遍在する波動 “ベルリン・エレクトロニカを一瞥する”
ヨーロッパに留まらず世界的にもエレクトロニック・ミュージックの最先端であると評判のベルリン。ミッテ、プレンツラウアーベルグ、クロイツバーグ辺りに住んでいる方なら、世界各地から集まった多様な人種が多いという感覚を持つこともあるだろう。ファラフェルやドネルケバブ、シャワルマを売るアラビア人やトルコ人でさえ、ドイツ語と英語を話すくらいだ。「アクフェンはさておき、カナダのエレクトロニック・ミュージックのシーン全体がベルリンに集まってる」と言う人だっている。
Weekend © Bullet Event GmbH
ベルリンには約5キロにわたる有名なクラブ通りがある。アレクサンダープラッツ広場のウィークエンドに始まり、ゴールデンゲート、トレゾア、バー25(夏のみ)、マリア・アム・オストバンホフ、バーグハイン、ウォーターゲートなどが、シュプレー川の両側に連なり、締めはクロイツベルグにあるクラブ・デール・ヴィジョナレだ。
Weekend © Bullet Event GmbH
イージージェット、ライアンエアー、エア・ベルリン、ジャーマンウィングスなど低価格の航空便が流行して以来、このクラブ通りは、ヨーロッパから、はたまたアメリカやアジアからやってくるクラブ好きの観光客で賑わっている。クラブ好きの若い大人にそれほど人気がある所以は、24時間年中無休で動く公共の交通機関にある。これがベルリンの「深夜カルチャー」を生み出しているのだ。午前4時に店に入り朝9時まで踊り続けたりすることもしばしば。そしてもう1つの人気の理由は、物価が安い街であるということだ。エントランスチケットも安い。ドリンクだって安いのに、それでもベルリンの地元の人々にとっては高いくらいだ。
ミニマルテクノ、ハウス、ダブステップで何時間も踊り狂って楽しむのに、ベルリンほど良い街はヨーロッパ中探しても見当たらない。しかし、ベルリンのエレクトロニック・ミュージックには、もっと面白いシーンやネットワークがある。それが「ベルリン・エレクトロニカ」だ。
Watergate © 2004 Watergate
ベルリンの壁崩壊そして90年代初頭の東西統合以来、ベルリンは、その安い土地と新しい風潮ゆえに、ヨーロッパのクリエイティブなアーティストや、実験的な活動をする人間にとっての新興地として栄えてきた。街は、再建と改築の嵐。このおかげで、アーティストたちはより多くのスペースが利用出来るようになった。クラブとエクスペリメンタル・ミュージックには、深い繋がりがあるのだ。
オートマーテンバー(2001~2004年)は、かつてベルリンの前衛たちが集った場所だ。オートメーション化された文化の保存と分析の促進を目的に、ヴィゾマートのようなメディア空間アーティストのグループによる構想で始まったバーである。ベルリンのミッテにあったこのクラブは、今でこそエレガントなブティックになってしまったが、かつては完全にオートメーション化されたバーだった。改造とプログラミングを施したコーヒーの販売機が、ドアを制御し、部屋全体を監視し、オーディオ・ビジュアルのジュークボックスを動かす。それによって、無料でDJの音楽とVJの映像が楽しめる。そして、会員は磁気カードをドアにかざして入場するというシステムだ。
四方幸子によってキュレートされたドイツと日本を結ぶメディアアートプロジェクト「モブ・ラブ」のメンバーであるテレマティックもまた、このメディア空間アーティストのグループの鍵となっている。そして、ミウォンもまたこの面白いバーによく訪れる客の1人だ。彼は、シュロム・シュヴィリ(マンチェスター)とタデウス・ハーマン(ベルリン)の運営するインターナショナル・レーベル・シティー・センター・オフィス(CCO)より、自身のセカンドアルバム「From A to B」を発売したばかりだ。
ミウォンは、今最も勢いのあるベルリンエレクトロニカアーティストの1人で、この記事に際してインタビューに答えてくれた。CCO経営者のシャデウス・ヘーマンは、エレクトロニカのライフスタイルを提案する「デバッグ」という雑誌の編集長でもある。また同時に、タケシ・ニシモト(I’m not a gun)、ポルノ・ソード・タバコ、ディクタフォン、ディーゼル+ヒュン、スタティック、そして先ほどのミウォンなど、エレクトロニカレーベルに所属するベルリンアーティストの親的存在でもある。シュロム・シュヴィリは、ブームキャットとイギリスのレコード配布元ベイクド・グッズの創設者だ。
ミウォンは、他の有名なベルリンのエレクトロニカレーベルに、スケープ、モニカ・エンタープライズ、ストーブゴールド、モール・ミュージック、ルックス・ニグラ、onpa )))))、カラオケカルク(org. from Cologne)などを挙げてくれた。
このようなレーベルのアーティストたちがブラつくところと言えば、たいてい静かなレコード屋だ。個人経営のレーベルにとっては厳しい時代だが、生き残っているレーベルもある。スタールプラート、デンス、ハードワックスなどはその中でもしっかりとした地位を確立しているレーベルで、それぞれ微妙に異なった志向を持っている。スタールプラート(プチ・ミニオン)はより実験的だし、デンスはよりエレクトロニックで、ハードワックスはダンスミュージック寄りだ。
ミウォンは、「あなたのルーツは?そして他のベルリン・エレクトロニカアーティストとのネットワークはどこで作ったのか?」という質問に対して、「ベーシック・チャンネル」と答えている。ベーシックチャンネルは、ベルリン・エレクトロニカがミニマルテクノと一緒になる場所でもある。モリッツ・フォン・オスワルドの最新のプロジェクトは、ミニマルテクノとクラシックを衝突させた作品「Re-Composed」である。彼とカール・クレイグは、この作品でカラヤン率いるベルリンフィルハーモニー管弦楽団の音源をサンプリングし、ラヴェルやムッソグスキーのリミックスを作り上げた。ベルリンの伝統と革新が出会う瞬間だ。
ベルリン・エレクトロニカと現代のベルリン在住日本人のライフスタイルについてのポットキャストはこちら。
Text: Shintaro Miyazaki from la-condition-japonaise, Berlin
Translation: Tatsuhiko Akutsu