NIKE 公式オンラインストア

森山大道 写真展「記録/記憶」

HAPPENINGText: Yukiko Tokugi

話がそれるが、私の周りで写真展を見た人が『この場所、昔よく行った』『ここに私がいるような錯覚に陥った』といい、驚きつつもうれしく思っているようだった。ギャラリートークで森山さんは『写真は今しか写らないが、つながっていく魅力的なメディア』と語っていたが、その懐かしい写真を見たとき、この言葉に近い感覚を持てたのではないだろうか。

moriyamadaidou3.jpg
© Daido Moriyama

森山さんは普段、21ミリと28ミリの2台のコンパクトカメラを持っている。フイルム交換によりタイミングを逃すことがないようにということだ。僕だって何が何でも毎日撮る、というわけではありませんけれど、という前置きはあったが、『撮らないと始まらない。画家のスケッチのようなものだと思いますし、路上でのスナップは特に日々撮り続けなければ。量を撮ることで分かること、わからないことが出てくると思うし、量のない質はありえない。以前学生に、どのくらい撮っているのかと尋ねたことがあるのですが、月に20本や30本では情けない。カメラマンになるなんてやめてしまえと言ったことがあります。量を撮る人は何より欲望がある人なのだと思う』。使っているのはコダックのモノクロフィルムトライX。『モノクロームの世界は刺激的。そしてエロティック。現像液の中に白と黒の世界が出てくるとドキドキすることがあります。』そして『デジタルカメラもカラーも否定しないし撮ることもあるけれど、トライ-Xがある限りは使い続けることに決めている』のだそうだ。

moriyamadaidou3.jpg
© Daido Moriyama

「欲望」「気分」「記録」など、このインタビュー中にも、また夜のギャラリートークでもいくつかの言葉が出てきた。息をする、煙草を吸うのと同じ感覚で撮らずにはいられないという写真家の欲望と、人間の息遣い、そこにいた痕跡が感じられる都市の風景などある瞬間を直感的に記録するというライブ感。相反するようにも同じライン上の言葉でもあるようにも思え、話を聞いて以来それらの言葉が持つ意味を考えながらカメラマンには到底なれない数枚を撮っては自分の欲望はこのくらいなのかと気づかされる日々を過ごしている。でも今回聞いた一見何でもない言葉、写真展で目にした、どこかで見たような気がする光景には静かに影響されているのだと思う。

moriyamadaidou7.jpg

森山大道がジャケットを撮影したジャズピアニスト・ケイコ・ボルジェソンのCD。通常発売は9月だが、札幌宮の森美術館先行発売は写真集仕立ての別バージョン。さらに300枚限定でオリジナルプリント付き。

札幌宮の森美術館での本写真展は会期延長で8月26日まで。今回の写真展を機にミュージアムショップで「記録」を常時販売するほか、今後、新たな展開を構想中とのこと。なお東京では8月5日まで写真集「凶区EROTICA」の写真展、7月27日からは最新写真集「ハワイ」の写真展が開かれるほか、来年5月には東京都写真美術館での写真展が決まっている。またスペイン・アンダルシア州セビリアを皮切りにヨーロッパ5カ国を巡回する大回顧展がスタート。9月からはドイツ・ケルンでの展示が始まる。

森山大道写真展《記録/記憶》
会期:2007年6月8日(金)〜8月26日(日)
時間:11:00〜19:00(月曜日休館)
会場:札幌宮の森美術館
住所:札幌市中央区宮の森2条11-2-1 宮の森ミュージアム・ガーデン内
TEL:011-612-3562
観覧料:一般 500円、高大生 300円
企画構成:森山大道、Akio Nagasawa Publishing
主催:札幌宮の森美術館
https://www.moriyamadaido.com

Text: Yukiko Tokugi
Photos: Yurie Hatano
Additional Photos: Courtesy of Miyanomori Art Museum © Daido Moriyama

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE