GUNDAM 来たるべき未来のために

HAPPENING

1979年に放映されたTVアニメーション「機動戦士ガンダム」(全43話)は、日本のアニメーション中で3本の指に入る作品だろう。この地位は、少なくても本世紀では不動ではないだろうか。なぜなら、27年前の作品が、いまだに続編・関連作品が創られている。それもワンパターンの繰り返しではなく、ガンダムの世界観を元にした他作品が発表されているのは、基本世界の奥の深さを示している。価値観や、趣味が多様化する現在、「ガンダム」は世代を超えた「共通言語」なのかもしれない。人と人との関係性が見直されている現在、こういった「共通言語」を大事に育てていくのも、アートの重要な役割だと思う。

「ガンダム」の奥底にある魅力を十分に引き出した大規模なエキシビション「GUNDAM 来たるべき未来のために」が、札幌郊外の森に囲まれ、複数のギャラリー、野外ステージを持つ市内最大のアート施設、札幌芸術の森美術館で開催中だ。



「胸いっぱいの愛を」© 創通エージェンシー・サンライズ © 2O05 小谷元彦

アニメ作品の展示といえば、オリジナルのセル画とか、メイキングや、設定資料、グッズの展示と販売などがメインとなり、ファンサービス的なものが多い。しかし、本展示は、ガンダム世代のクリエイターが触発されて制作したオリジナル作品を、「ガンダム」に描かれていた「戦争」、「進化」、「生命」を考察するという、現代美術展となっている。

全22作品が展示され、国内のアートの最前線で活躍クリエイターの平面作品から、プロジェクターを多用した映像作品、巨大なオブジェからメディア・アートふうの作品もある。会場ロビーにはガンダムの生みの親、富野由悠季の作品も特別出品されている。

今回、「ガンダム展」の様子を同美術館の学芸員である吉崎元章さんのコメントを交えながら、6つの展示作品をピックアップしてレポートしよう。まず、最初に吉崎さんにとって「ガンダム」とは?質問してみた。『高校時代にタイムリーにファースト・ガンダムを見ていた世代です。やはりそれまでのアニメとは明らかに異なる世界観に大いに触発されました』とのこと。お客さんについて聞いてみると、『幅広く幅広い年齢層の方がいらしています。平日は、若い方が多く休日は若い親子連れが多く、子供のためにというよりガンダム世代の父親が自分が一番見たく来ているような雰囲気を感じました』。なるほど。

中に入ると、暗い空間の壁面のほとんどプロジェクター映像で、宇宙を表現した作品が流れている。フロアの中央には、ガンダムに登場する戦闘機「コアファイター」の実物大オブジェがある。これらが、最初の作品、「Breathe upon the Universe」(生西康典×掛川康典×ククナッケ×シュー×マジックコバヤシ×永戸鉄也)。ガンダム最終話のラストシーンをモチーフにしていて、「戦いの終わり」を感じさせる。破損して汚れたボディ。コックピット内の計器までリアルに再現されていて良かった。


「crash セイラ・マス」© 創通エージェンシー・サンライズ © 2005 Nishio Yasuyuki

そのまま歩いて、曲がるとすぐに、「crash セイラ・マス」(西尾康之)がある。ガンダムに登場する女性キャラクターの彫刻作品。その迫力に圧倒される。写真ではわかりにくいが、高さだけでも大人の身長よりずっとある。セイラは、「ガンダム」の中では、従来のアニメ作品のありがちな、可愛らしい女の子、とは異なる一見、親しみにくい神経質さを感じさせていた。その性格には彼女のそれまでの生き方とリンクしている。「ガンダム」に多数登場する人物の複雑性を象徴したキャラクターといえるだろう。


「サイコ・コミュニケーター・システム」© 創通エージェンシー・サンライズ © 2005 New Type Technology lab.

広めの空間に出た。広い壁面そばを全面に利用して、ニュータイプテクノロジー ラボ(フラナガン機関内)(カズヒコ・ハチヤ タロウ・マエダ ヒデ・アンドリュー カンカンゼ・ソル ベウンム)による「サイコ・コミュニケーター・システム」がある。これは、お客さんが参加できる体験空間。「ガンダム」のラストで子供達が、主人公の帰路をテレパシー的な未知の能力を発揮したシーンからインスパイアされた作品。人間同士の遠隔的なコミニュケーションの可能性を追求している。「ガンダム」後半で描かれる、宇宙で育った「ニュータイプ」と呼ばれる新しい世代をテーマにしていると感じた。


「せめて惑星らしく」© 安村崇

再び壁面に目をむけると、写真作品、安村 崇「せめて惑星らしく」が並んでいる。地球の表面を「惑星」として意識して捉えた表現。「ガンダム」の世界では、地球で生まれ育った人間と、地球を知らずスペースコロニーで育った人間、という区別がある。人間はどこまでも差別ということを考えるのだろうか。


「Space Camp Site」© 創通エージェンシー・サンライズ © 2005 Shinoda Tarou

「Space Camp Site」(篠田太郎)の作品は、卵型に近い透明なビニールのバルーン中で、LEDの照明によって、植物を栽培。これは、「ガンダム」の世界の宇宙に浮かぶスペースコロニーに住む人類が、植物を宇宙に運ぶプロセスを作品にしたもの。中では本物の苔やシダが栽培されている。未来のテクノロジーを感じさせる。

ここではすべての作品を紹介しきれないが、全22作品をたっぷり楽しむことができるだろう。

最後に、吉崎さんは、本展示のみどころを聞いてみる。『ガンダムをよく知っている人には、それぞれの作品にちりばめられた要素を感じ取ることができるし、ガンダムをあまり知らなくても、今回の展覧会のキーワードとなっている「戦争」「進化」「生命」という普遍的なテーマによって、純粋に現代アート展として見ても充分楽しめるクオリティーの高いものになっています』と語ってくれた。

僕もまったく同じように感じた。補則すると、「ガンダム」という、あえて言えば子供むけに作られた作品が、たくさんの人の生き方や、写真、デザイン、書道、テクノロジーなどなどという無数の分野のクリエイターに影響を与え、その結果として、これほど大規模なエキシビションが、可能になったことは素晴らしいことだと思う。アートの可能性を感じさせるものだ。本展は今世紀に開催された重要な日本の現代美術のイベントになるだろう。札幌芸術の森美術館では、9月24日まで開催。お見逃しなく。

GUNDAM —来たるべき未来のために—
会期:2006年8月6日(日)〜9月24日(日)※会期中無休
会場:札幌芸術の森(札幌市南区芸術の森2丁目75)
開館時間:午前9時45分〜午後5時(8月は午後5時30分まで)※入館は閉館30分前まで
夜間開館:毎週金曜日は20:00まで開館します。
観覧料: 一般 1,200円、高校・大学生 800円、小・中学生 400円
キュレーター:東谷隆司
主催:札幌芸術の森美術館、財団法人札幌市芸術文化財団、HBC北海道放送、北海道新聞社
後援:札幌市、北海道教育委員会、札幌市教育委員会
特別協力:ガンダム展製作委員会

Text and photos: Shinichi Ishikawa (Numero Deux)

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