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メノ・ウィットブラッド

PEOPLEText: Ania Markham

私達がはじめて、メノ・ウィットブラッドに会ったのは、彼がポスト・パニックでプレイステーションのサッカーゲームをやっている時だった。彼はどうみてもコンピューターゲームで上手に蹴りを入れられるような人には見えなかった。ともあれ、私達は、コントロールパッドに張り付いている彼にもっと近づいてみることにした。

彼はもともとオランダ北部の出身で、10年前にアムステルダムに引っ越したのだが、いまや街で最も有名なイラストレーターの一人として定住するに至った。以前、彼は積極的にアニメのデザインに関与していたのだが、このアニメという分野は彼が今でも興味のあるところなのだ。いずれにせよイラストレーションに限っては、彼が小さい時からずっと興味のあることで、例え年月の間に技術的なことが変わっても(今、彼は制作プロセスのほとんどをコンピューターで行っている)、それはそれほど問題ではないのだ。『私はいつも人間のキャラクターそれ自体と、人間がつくる関係性に興味がある』ということらしい。

彼のイラストのほとんどは、クォートやエスクァイアなどの雑誌から委託されるものが多く、驚くべきことに、彼は自分のイラストの構成がクライアントなどのような相手に決められているときの方が、上手く描けるという。『どういうわけか知らないけれど、自分のキャリアにおいて今の段階では、構成を相手に決めてもらうほうが仕事が上手くいくような気がするんだ。』

彼はとても思慮深い人間で、何でも好きなものを描いていいという自由を手に入れると、それが余計に問題を引き起こすのだ。『もし、自分のアイディアだけで仕事ができたら、強烈すぎるものになってしまう気がする。』だから、例えば個展を開催することはそれほどやりたいことではなく、むしろ本をつくることの方が今の彼には興味がある。『本には形式がある。壁にドローイングするのとではわけが違う』

彼は以前家で仕事をしていたが、最近になって何人かの「020」(アムステルダムの電話コードから名前をとった、グラフィックデザイナーやイラストレーターの同志のグループ)のメンバーとスタジオをシェアしている。彼は他の人と一緒に仕事をすることがいかに大切かということを、スタジオをシェアし始めて気付いた。『私はかつて何の束縛もない自由が好きだったが、今は彼らのフィードバックや、彼らのやっていることを見るのが好きなんだ。』

彼の余暇の過ごし方といったら、ひたすら読書をしているか、あるいはゲームをやっているかのどちらかだ。彼はとりわけ日本文学が好きで、特に三島由紀夫と村上春樹の2人からは、日本のアニメと、そしてそれらの背後にあるインスピレーションは何なのかをもっと知りたいと思うきっかけをもらった。

『私を魅了したのは、彼らの作品の中に見られる “妙さ” だろう。ほとんどは現実との境界すれすれのところにあるが、同時に現実と交錯して境界を越えてしまっている。私にとって三島の「金閣寺」と出会ったことは、まさにターニングポイントだった。』

これらの本が彼の仕事に与える影響は、今年彼が手を拡げたいと思っている部分…それはゲームのアートワークをもっとコンセプチャルにしたいという計画に関係のある “何か” であり、そのことを考えると2005年は彼にとって良い年になることは間違いないように思えてきた。

Text: Ania Markham
Translation: Ryoko Ogino
Photos: Mark Visser

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