「ライティング:アーバンカルチャーとその先」

THINGSText: Michiko Ikeda

Writing – Urban Culture and Beyond」は、ストリート・カルチャーだけではなく、グラフィックデザイン、そして建築のような立体的なスタイルへの敬意が、本という形となって表現されたものだ。長い間、その価値が認められずにいたグラフィティ。しかしそのような状況下でも、ファッションやパッケージ、グラフィックデザイナーなどに特に好まれて使用されてきたのは事実である。そして現在グラフィティは、都会にある当たり前の風景の一部と化している。

本書では、グラフィティの隠れた魅力についても紹介。グラフィティが持つ美しさに改めて気付かされるだけではなく、この本が様々な分野においても貴重な一冊であることが、ページをめくる度に感じることができる。本書ではまずはじめに、「タグ」について紹介。タグとは、街角でよく見かけるなぐり書きのような文字のことで、それを書いた人物のサイン代わりのようなもの。

70年代からは、公共物などへの破壊行為と見なされていたことも。その後、複雑な立体的アート作品の紹介へと続き、最後には3Dのタグと、こういったアートがデジタル化された際に開発された、携帯可能のスプレーマシーンについての説明が行われている。編集は、ベルリンを拠点に活動するデザイナー、マーカス・マイとアーサー・レムケ。ディゲシュタルテン出版社から発行されている本書では、都会で誕生したアートの歴史を知ることができる他、これまでとは違った側面から、このライティングカルチャーを垣間見ることができる。


Masa, Caracas Venezuela, 2003

『その昔タグは、街にたむろするギャング達のテリトリーを示す境界線としての役割を持っていました。そしてこういった、ギャングがある地域を独占するといった風習がなくなった頃には、境界線という情報を伝えるという意味も薄れ、もっと個人のスタイルを表現するスタイルに変化していったのです』と、著者であるマイ氏は語る。独特のスタイル、アーティスト各々の個性が表現されたラテン語のアルファベット、丸みを帯びた書き方など、それら全てがタグを形成する。タグとは、感情を伝える術のひとつ。『このタグはどんな人が書いたのだろうか?』といった疑問を投げかけるパワーも兼ね備えているのだ。


From top to bottom, left to right: Drama, Milk, Bas Two, Inca, Bas Two, Yok One, Milk, Berlin, 2000-2003

これは、2003年にベルリンで発見された「ドラマ」という作品。こういった作品は「スローアップ(さっと仕上げる)」と呼ばれており、明らかに文字として分かるタグよりも、絵的要素が強い。個人のサインとしての働きも共わない場合もあるのだが、そのスタイルと個々の性質を表現することで、作者自身の主張や認識を高める情報を伝える役割を持っている。


Dez 78, Berlin, 2003

あるひとつのものがアートとして確立するのに長い年月を要するのと同様に「サイン」がアートの一分野としての地位を築き上げるのにも、それなりの時間を有したのは他でもない。良いタグは「作者の個性を表現したもの」として認識され、そういった優秀な作品はどれも、作者独特のスタイルが光るものばかりだ。

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