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ブエノス・アイレス現代美術展「コンテンポラリー」

HAPPENINGText: Gisella Lifchitz

コンテンポラリー3も、なかなか見応えのあるの内容だ。ここの担当を受け持ったのは、キュレーターのジョージ・マイアー。彼のキュレーションにより、2名の若手アルゼンチン人アーティストの作品が合体した。彼らの作品に対するリアクションも、他のものとひと味違うだけではなく、アーティスト本人もユニーク。マイアーによると、ナフエル・ベッチーノは、どちらかと言うとよく喋り、スリムでちょっと弱々しい感じ。それとは逆に サンドロ・ペレイラは、言葉少なだが、体格が良く色黒だ。ベッチーノが描いたのは、環境や戦争、あるいは様々な理由で被害を受け、離ればなれになってしまった人々の風景。私達にとっては見なれない風景かもしれないが、どこかしか、親近感が湧く作品だ。彼のロマンチックなスタイルは、まるで血液のように赤みがある。そして、反対側の展示物にまでその勢いが届きそうなのだ。


Nahuel Vecino

ペレイラは今回、展示物として彫刻作品2点を選出。結婚式を挙げたばかりの新郎と、巨大なアヒルがライフガードのように働くとい作品だ。この2作品があるだけで、美術館全体が小さく感じられる。それだけではなく、人や全てのものの意味さえもが、小さく感じてしまうのは不思議だ。ぽつんとおかれたテレビでは、巨大なアヒルが湖で繰り広げる冒険物語が放映されていた。小さなアヒルの集団が、偽物のアヒルにひょこひょこついて歩く姿がとても面白かった。


Sandro Pereira, Salvavidas, 2001

ちょうどその時、偶然にも老齢の男性が、彼の奥さんと思われる女性に「小さいアヒル、見たことあるかい?かわいいよね!」と言っているところを聞いた。彼の後ろ姿を見ながら私は、そう言いつつも彼の声に隠れていた恐怖心を噛み締めていた。テレビの中では、アヒルはまだ泳いでいる。流れに乗ってどこまでも行くアヒル。そんな絵を見てると、誰しも何か他のアクションを期待してしまう。しかし、一番の山場はもう既に終わっているのだ。現代人は、何を他人に求めているのだろうか。その答は、迷宮の奥に隠れているのだ。

共存という復活。死ぬ運命にある人を助けるアヒルの中の共存。さらさらの髪のかわいい日本人の女の子との共存と、次へ進め、という警告サイン。ライスシャワーを思う存分浴びた、出口をうつろな目で探す新郎との共存。覗いてみることさえ嫌になってしまう、カビ臭いタンクと、誰もがもう一度、シャンペンを開ける前に思わず見入ってしまうテレビ。

その答はおそらく、オープンな質問の中にあるのだろう。そして、このアーティスト達を世間が受け入れるかどうかについても、とにかく聞いてみるしかないのである。

Contemporary and Modern
会期:2002年11月21日〜2003年4月7日
会場:Museum of Latin American Art of Buenos Aires
住所:3415 Avda. Figueroa Alcorta, Buenos Aires
TEL:+54 11 4808 6500
https://www.malba.org.ar

Text: Gisella Lifchitz
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Courtesy of Museum of Latin American Art of Buenos Aires © the artists

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