ブエノスアイレス現代美術館
PLACEText: Gisella Lifchitz
サン・テルモという観光地でもあり、伝統的な雰囲気を醸し出す地区に建つブエノスアイレス現代美術館(通称MAMBA)。その姿はまるで、中東地域の建築スタイルを彷佛とさせるものがある。そこに集まる人だけではなく、文化、ショップ、そして生活様式から、ここサン・テルモでは、様々なものがミックスされ、ーつのスタイルを形成しているのが感じられる。ブエノスアイレスに住む地元民にとっても、サン・テルモの雰囲気は、新鮮でもあり、懐かしさを感じさせるものなのだ。通りを歩いているだけで「あぁ、私達の中にも、彼らと同じ伝統が潜んでいるんだな」というのが分かる。どこまでも続く石畳の通り、色鮮やかな家々、そしてアンティーク商品を売る店だけが、観光客の目を楽しませているのはない。そこを通り過ぎる全ての人の顔に、思わず笑顔がこぼれてしまう不思議で隠れた魅力が、この地区にはあるのだ。
ブエノスアイレスでは、ここ5年間ほど若手の商業デザイナーの間で、オリジナルデザインが施された作品をプッシュしようという動きが活発になってきている。この活動は、デザインを重視しようという、都会派現象に通じるものがあるようだ。例えば、サン・テルモやパレルモといった地域が、そういった現象が強く起こっている、興味深い例である。
「バリーオ」という言葉がある。これは、スペイン語で近所という意味で、サン・テルモはバリーオ。つまり、人々から生まれた地元文化や歴史の一面や特徴が、このバリーオでは色濃く表れているといった意味合いだ。ブエノスアイレスの人は、よく「ポルテーノ」と呼ばれることがあるのだが、これは「港から来た人」という意味。実際に街には港があるため、サン・テルモの人もまた、ポルテーノだ。
全てのものが古く、昔の歴史が、そのまま時空を越えて現代にタイプトリップしてきたかのような街、サン・テルモ。そのような街に、アーティストは、日々家族の世話に追われる女性やバーテンダー、多くの観光客、そしてセールスマンと生活を共にしているのである。
ここでの美学は、フェデリコ・フェリーニの映画作品のようだ、とも言える。ここでは誰だってアーティストになれる。安いピザを頬張りながら、自分の作品を見せるのもアリ。友達がいるスタジオにひょっこり顔を出すのもアリ。そしてその周辺には、画家や写真家達が住んでいるのだ。ライフスタイルは、自由で気ままなボヘミアンでノスタルジック。実際ここ何年かのサン・テルモには、アートと日常生活、そして歴史的要素が自然な形でミックスされているのを見受けることができる。
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