ファーマーズ・マニュアル・ライブ

HAPPENINGText: Jo Kazuhiro

ファーマーズ・マニュアルからマティアス・グマッフェをメインゲストに迎え、8月9日にライブイベントが行われた。会場となったシンクゾーンでは、マティアスに加え、現在ではACOとのコラボレーションを行うポータブルコミュニティ、そしてキット・クレイトンにも通じるようなダンサブルなトラックを提供する気鋭のサウンドクリエイターであり、電子音楽レーベル・プログレッシブフォームよりリリースも控えた徳井直生、さらに凄まじい映像と音響で迫る710.beppo、そしてシリコムでの活躍でも知られる青木孝允を迎え、設置された23台のプロジェクターを駆使した映像と音との共演が繰り広げられた。

今回の会場であるシンクゾーンは東京の新たなランドマークとして再開発が進んでいる六本木ヒルズの全貌を最新情報と映像で伝える施設であり、天井に設置された16台のプロジェクターによる高画質の大画面映像を床全面に映し出す仕組みを備えている。さらに今回は壁面にも7台のプロジェクターによる映像を投影し、計23台のプロジェクターによって、映像に包み込まれるような空間が構築されていた。また併設されたブックカフェでは、ドリンクやフードが提供されており、ソファーでくつろぎながらみたり、床に寝そべって聴いたりと幅広い楽しみ方を可能にしていた。

まずはじめにマティアスによる自作品の解説を交えたプレゼンテーションが、サロンマガジンの針谷周作との対話形式で行われた。自作のDVDを流しつつ行われたこのプレゼンテーションでは、ファーマーズ・マニュアルの成り立ちや、自作のソフトウェア、プログラムの限界、現在製作中のDVDについて、といったトピックが話された。対話が聞き取りづらかったのが多少残念ではあったが、その中でも、既存のソフトウェアにあき足らずに自作するようになった、プログラムには限界があり人でしかできないことがあるといった話題は興味深く、共感を持って聞くことができた。

DJを挟んでの710.beppoによるパフォーマンスでは、2台のMac上で動くMax/MSP/nato.0+55+3d modularによって、広帯域にわたるノイズとその音に完全に同期した映像空間を体験することができた。

続いて行われたポータブルコミュニティは、当日急遽ゲスト参加が決定したACOとのコラボレーションの曲を交えつつ、まるで閃光のような高速の映像と、スピーカーが悲鳴をあげるような攻撃的かつリズミカルな音の絡み合うライブパフォーマンスで観客を包み込み、会場からは一曲終わるごとに拍手が巻き起こっていた。ライブの最後に演奏されたACOとポータブルコミュニティによるマドンナの「マテリアル・ガール」のカバーは、加工されたソニーのアニメーションコンピュータの絵と素晴らしいマッチングを見せており、個人的には今回のイベントの中で最も楽しいひと時であった。 さらにその後再度DJを挟み、マティアスのパフォーマンスが行われた。彼の作品は穏やかな映像と音とで構成されており、会場をひと時の間和やかな雰囲気に包み込んでいた。

再度DJを挟み行われた、青木孝允のパフォーマンスは、VJとしてポータブルコミュニティが参加し、Mac上でしっかりと構成されたパッチから生み出されるトラックと、パッチを覗き込みながら踊る人々の姿が印象的であった。最後の徳井直生。Max/MSP/natoオブジェクトの開発者としても活躍中の彼は、一旦音が止まるというハプニングに見舞われながらも、710.beppoによる映像と絡み合うフロア仕様の音を会場全体に鳴り響かせていた。過去何回かの中では一番気持ちよく聴くことができ、ライブ・パフォーマンスにおける音響/映像システムや場の雰囲気といった空間の大切さを再認識することができた。

ここ数年一般的になってきたラップトップコンピュータによるパフォーマンスだが、 コンピュータと向かい合っている姿は身体性に欠けるためか、最近ではやや退屈を覚えることもしばしばであった。しかし今回のようにその場所ならではの設備・環境を生かし音響と映像とが一体となった空間を提示する、といった形でのパフォーマンスにはまだまだ可能性があるように感じられる。

今回の会場であるシンクゾーンは来年春までとの期限付きの施設ではあるが、今後様々な企画が進行中とのことであり、未体験の方はぜひこの空間を一旦体験してみることをお勧めする。

更にこのレポートを執筆中に、Max/MSPの開発元のCycling74から映像処理オブジェクト群の「Jitter」がリリースされた。試しに使ってみたところ後発ならではの使いやすさを実現しているようであり、新たな音響/映像表現の可能性が感じられる。また、本記事で紹介した日本人アーティスト達は9月にヨーロッパツアーも予定しているとのことなので今回のレポートで興味をもたれた方はそちらも要注目だろう。

Farmers Manual Presentation+Live by SALON/SPUTNIK
会期:2002年8月9日
会場:Roppongi Hills Information Center/THINK ZONE
住所:東京都港区六本木6-2-31 ZONE 六本木ビル1F
TEL:03-5770-8777
http://web.fm

Text: Jo Kazuhiro

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