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オキ・ライブ

HAPPENINGText: Shinichi Ishikawa

彼の手にはトンコリがあった。それは、カラフトアイヌに伝わるアイヌ民族唯一の弦楽器。胴が細長く平べったくて、スティック・ベースのような外見である。5本の弦はあるが、それをギターのように押さえて音程を変化させることはできない。そのため、5つの開放弦を弾くのみなので、奏でることができるサウンドは非常にシンプルである。

彼を横に座る女性はウポポ(アイヌ語で歌)とムックリ(口琴)でサポートを行う。恐らくオーディエンスの大部分はトンコリのライブを体験するのは初めてではないだろうか。

ステージに会場にいる全員の注目が集まる中、ライブが始まった。イントロに横の女性によるウポポとムックリが何回かくり返された後、トンコリの演奏が加わった。その音色は素朴であるが楽器の形状のため音が不安定になるため基本的には5つの音しか出せないのに、非常に表情豊かなサウンドを奏でる。

トンコリのファンによれば、この不安定な音も魅力のひとつだという。僕もこのライブ体験して、クラブでテクノを聴いたような高揚感や、アンビエントのようなバーチャルなリラックス感とは異なる、良質のアートを体験したような緊張感を伴った気分の良さを感じることができた。同時に、北海道で生れ育ちながら、この場所で生れたこの音楽についてあまりに無知だったのも、少し恥ずかしい気分になったライブ経験だった。

デジタルの表現という最終的に「0」と「1」しか許さない方法は、クリエイトする環境を簡単にしたが、同時に失われた何かがあるのではないだろうか。不安定だが、それゆえに魅力的なトンコリの音色を聴いていると、そう思わずにはいられなかった。

OKI LIVE
日時:2002年6月1日
会場:SOSO CAFE
住所:札幌市中央区南1条西13丁目 三誠ビル1F
soso@shift.jp.org
https://www.shift.jp.org/soso/

Text: Shinichi Ishikawa
Photos: Shinichi Ishikawa

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