ジャン=マルク・バール「フリー・トリロジー」

HAPPENINGText: Aya Muto

現段階ですでに公式なドグマ作品は25を数えている。「ラバーズ」初のデンマーク外からの作品となった。パリに住むユーゴスラビア人のアーティスト、ドラガンと本屋で働くパリジェンヌのジーンの愛を追う。パリの街並を背景に展開するこのストーリー、結局はドラガンの違法滞在がバレ、激しく恋に落ちたにもかかわらず二人は、その試練にうまく立ち向かえず破局を迎えてしまう。とてもとても理不尽な「日常のなぜ」が濃縮されたこの作品、見ている側に行き場のない絶望が襲ってくる。いってみれば多くの映画が許す娯楽や遊びが終始許されないわけである。ジーン役のエロディ・ブッシェーズの無頓着で奔放なキッチュさを除けばとてもキツい映画だった。でもその超現実主義がドグマたるゆえんなのであろう。


“Too Much Flesh” (2000)

それに続いた「トゥーマッチ・フレッシュ」(2000)は、よりによってアメリカのど真ん中のイリノイ・コーンベルト地帯に位置する人口600人以下の片田舎(バールが実際育った街にて撮影。家族が多く出演しているという)に設定された、セクシュアリティの模索オデッセイ。監督たるもの「セクシュアリティ」は誰もが一度は追求するテーマ。ここでは同性愛・異性愛はもちろんだが、むしろ精神的・肉体的愛のメソッドとしての性の可能性をぎりぎりの表現でまっすぐにとらえている。

乾燥したどうもろこし畑の黄色に濃い青の空が広がり、前作のグレーな暗鬱を吹き飛ばしてくれた。実は排他主義のあまり殺人まで最後に起ってしまう(そう、これはドグマ作品ではありません)という、絶望レベルで言えば断然群を抜いているこの作品だが、アメリカの中西部のピューリタン・コミュニティーという実にアメリカの中のアメリカに焦点を当てているため、目の前の憂鬱が希薄されたのかも知れない。それに目に美しいバールも48歳のライル役でカメラの向こう側に出演、それも助け舟になった。かなりの露出度もDVのカジュアルさを存分に利用した親密な描写が実に嫌味のない率直さをかもし出す。


Rosanna Arquett

「変にムーディに演出しないことにより(BGMもカーステレオとバーのシーン以外はなし)セクシュアリティの追求も好感的に遂行できる、」と上映後のトークでバールがコメント。共演のロザンナ・アーケット(ハリウッド在住の彼女はベビーシッターを手配し、飛び入り参加)もDVのアンチ・厳かな効果を絶賛。「全ての映画づくりがこうあるべきだわ、」と冗談混じりでコメントしたアーケット。

この「トゥーマッチ・フレッシュ」をイリノイで撮影中、同時進行で6本も映画を撮影していたという彼女だけに説得力が。DVの特徴としてポストプロダクション編集の許容量の広さからテイク数が断然少ないと言う。バールも「DVだからこそ得られた親密性(インティマシー)ははかり知れない」と足す。皮肉にも商業主義の王道を行くリュック・ベッソンによって名を馳せたバールだが、己の位置と発するメッセージの確信性には強い自信が匂った。「そこにある事実」を見失いがちなハリウッドに心地よい喝を入れた夜だった。

これから行われる、アメリカンシネマテックでのイベントについての情報は、マーゴット・ガーバーまで。

Text: Aya Muto
Photos: Aya Muto

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