アルス・エレクトロニカ 2000

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

その一方で、アート・パフォーマンスはどれもこれも大いに楽しめるものであった。

巨大なファイル・キャビネットをバーチャル・セックスのメタファーにして、ブルックナー・ハウスのホール全体を倒錯空間にしてしまった、イストヴァン・カントールによる「ファイル・キャビネット・プロジェクト」ライブ。フェスティバルの開催都市であるオーストリア・リンツの広場の中で展開された「精子レース」。躍動するダンサーをスクリーンにし、新しい身体表現の可能性と美しさを見せてくれた 「D.A.V.E.」など、いつも飽きさせず、また、これでもかとばかりに先鋭的かつよく成立した作品群が、今年はより多く世界中から集められたのであった。

特にテーマ・イベントの「精子レース」であるが、年々数が減り運動量が弱くなる人間の精子の問題に焦点を当て、一番速い精子を求めて競わそうというもの。参加者の男性が搾り出した精子をもとに、女性陣がお金を賭けるギャンブルレースだ。昨年はテーマであった「ライフサイエンス」にかけて、世界最速のゴキブリを決める「バグレース」を開催したが、今度は精子ということだ。どちらもリンツにあるカジノが運営を受託し、合法的なギャンブルとして展開したものである。
とにかく「精子レース」と広場で顕微鏡での拡大ビジュアルとともに大きく掲げられ、「精子」「精子」とマイクで連呼する姿は言いようの無いものであった。

なみに初日の勝利者はイギリスから。外人精子ということもあって不人気で高倍率であった、翌日には「スポーツマン」のという精子に人気が集中したが、実際には1%に満たない人からの人気しか集まらない精子が勝ったという。

テーマものに関して言えば、結局風刺程度しか出来ない物でしかなったものであったことを露呈してしまったのあるがそれはそれで楽しめたのだからいいだろう。それよりも、この楽しさや感動は、電子メディア・アートが遂に目新しいものから、掛け値無しに万人が評価できるものへと変化した証と見て取れるのではないのだろうか。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE