アルス・エレクトロニカ 2000

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

21年目を迎えるアルス・エレクトロニカ。デジタル・メディアが現実の生活に無くてはならなくなってしまった現在のアートとして、電子芸術/メディア・アートがメジャーなものにバージョンアップしつつある劇的な過渡期の中で、もはや陳腐化してどうしようも無くなってしまったアプローチ(バッドニュース)と、デジタル・メディアによる新しい時代を髣髴させるに余りある突き抜けてしまったもの(グッドニュース)の輝くべき到来を感じさせる瞬間とのコントラストに分かれたものであった。そのコントラストをバッドニュースとグッドニュースというかたちにして今回はお届けしよう。

今年のテーマは「NEXT SEX」。昨年に引き続きライフサイエンスへの探求はまだ続く。クローンなどDNA技術の発達によって、性行為そのものが生殖という意味をなさなくなりつつことが予測される中で、では次のセックスの意味は?という問題提起であったが、そもそもの電子芸術と文化と科学技術が融合するインターディシプリンなフェスティバルという主題からみるととばし過ぎてしまったみたいだ。

主題に基づいてこれでもかと地球規模で見事なキャスティングをし、軽快なモデレーションを今までこのシンポジウムでしてきた科学史家のマニュエル・デ・ランダが、もろもろの事情によって降りてしまったということもあり、一日中聞いていても飽きない知的好奇心が止めど無く湧き出る感覚を味わうことが出来なかったのだ。東京大学の海野信也博士(産婦人科)による人工子宮の動物実験の報告や、ピルの発明者である、カール・デュラセル:スタンフォード大学教授(薬学)によるピルの賛美など、既に完結してしまったもの。とにかくまだ目を見張る成果を収めていないプロジェクト。はたまた「レイプは自然に発生した文化だ」と論じ、怒号の嵐を巻き起こしたランディー・トーンヒル:ニューメキシコ大学教授(生物学)など、とにかく中途半端だったのだ。締めくくりは、トランスジェンダーを果たしたメディア論者によるパフォーマンスなのだから、何が「NEXT SEX」なのかを自身に問う材料すら見出せなかった。

タイトルやマニュフェストにこだわるだけでなく、数年前の頃に立ち戻り、最先端の科学技術を文化化する鼓動に満ちたリアリティーのある現場を作り出せるように、ちゃんと練ってもらいたいものだと思ってやまなかった。

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