アルス・エレクトロニカ 1999

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

『テーマを決めたはいいが、それに当てはまる作品やプロジェクトを世界中から探し出したり、仕込むのが大変。関連したことができるアーティストがいなそうで、潰れるテーマ案もある』と、アルス・エレクトロニカのマネージングディレクター(芸術部門)であるゲルフリート・シュトッカーは先月の来日時に語ったのだが、まさに「ライフサイエンス」という今年のテーマは、さぞ難しかったのだろうなと感じさせるものであった。そのためか、何故かテーマの深刻さとは別に関連作品はユーモラスで、つい遊べてしまうようなものが散見された。

「Prix Ars Electronica」のインタラクティブ部門での招待作には、昨年に引き続き、ハムスターによる作品が登場。このドイツからやって来たアーティストたちによるプロジェクトは昨年のテーマ「INFOWAR」ネタで、ハムスターにネットワークケーブルを齧らせてサイバーテロ兵士に仕立てるというハムスター教育作品「バイト」で招待作の座を得たのだが、今年はハムスター動力のモーターを「開発」、再び招待を射止めてしまった。

この「モーター」、ハムスターが乗ると前に移動、移動先の終点には餌を用意して「動力」として教育しようというもの。「動力」になるハムスターの仕草がとても可愛いいのだが、一方で出展アーティストが黒いスーツにサングラスとインチキくさい風貌でハムスターをあやしているのとセットで見るとより面白さが醸し出されてしまうのであった。

一方、テーマ招待には、日本から的場兄弟が参加。「デジタル福笑い」を昨年発表した兄がコンセプト、元自動車メーカーのエンジニアであった弟が作品製作にあたった「虫と遊ぼう」を出展した。この作品は、プラズマディスプレーに拡大した地面と同じく同縮尺の「ロボット棒」を仕込んで、いつも悩まされているダニやノミやアブラムシといった小さい虫をいぢって「仲良くしよう」というもの。シンプルなのだが、子供心に小動物をいぢる喜びを大げさな機械で追体験することができる作品として、いつも笑いの人だかりが絶えなかった。

その笑いの極めつけは、一体これはアートなのか、いや、アートだなこの光景はと問答してしまうかのような自主企画の「バグレース’99」。バグといってもPCにいるものではなくて、生きているバグ、ゴキブリ。クラブの奥深くに組まれた特設リングで、ゴキブリたちが電気ショックで追いたてられながら、速さを競う。エキセントリックなリングアナウンサーが場を盛り上げ、リアルタイムでオッズが出(本当にお金が賭けられる)、ライトが飛び交う無機質な空間で、バグ券を握り締め、満員の人込みでゴキブリの名を叫びあう、にわかギャンブラーたちの姿はまさにもろ「サイバーパンク」。筆者はなにも考えずに(というかゴキブリをどう見ても分からない)賭けたら、3倍で当たり、夕食代が浮いてしまった。その後、最終日には、各晩の勝利バグが競い合い「世界最速」のゴキブリが決定されたとのことであった。

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