再開館記念「不在」― トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル
HAPPENINGText: Alma Reyes
ロートレックの作品の終盤では、19世紀のパリで盛んに営業していた娼館の存在を感じさせるリトグラフが多く描かれている。ロートレックは女性たちの日常生活に興味を持ち、彼女たちをスケッチした。ロートレックの有名な版画のひとつに《『彼女たち』座る女道化師―シャ=ユ=カオ嬢》(1896年)がある。ロートレックは、道化師でありダンサーでもあるシャ・ユ・カオの、舞台袖でのどこか寂しげな表情を捉えた。また、《『彼女たち』行水の女―たらい》(1896年)も魅惑的で、洗練された雰囲気の中で入浴の準備をする女性が描かれ、社会階級を暗示している。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《『彼女たち』行水の女―たらい》1896年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵
ソフィ・カルの作品は2階に展示されている。ソフィ・カルが制作活動を始めた1979年以降、自伝的作品をまとめた《本当の話》(1994年)、自身の失恋体験による痛みとその治癒を主題とした《限局性激痛》(1999年)など、テキストや写真、映像などを組み合わせた作品を数多く生み出してきた。また、「見ることとはなにか」を追求したシリーズ『盲目の人々』(1986年)、『最後に見たもの』(2010年)などを通して、美術の根幹に関わる視覚や認識、「喪失」や「不在」についての考察を行っている。

ソフィ・カル氏ポートレート Photo: Yves Géant
本展では、ソフィ・カルの多くの作品に通底する「不在」をテーマに、作家自身や家族の死にまつわる『自伝』や、額装写真の前面にテキストを刺繍した布が垂らされ、その布をめくると写真が現れる『なぜなら』など、テキストと写真を融合した手法で構成された代表的なシリーズを紹介している。美術館における絵画の盗難に端を発したシリーズ『あなたには何が見えますか』(2013年)や、ピカソ(作品)の不在を示す『監禁されたピカソ』(2023年)、さらに《フランク・ゲーリーの花束の思い出》(2014年)や、映像作品《海を見る》(2011年)など、ソフィ・カルの多様な創作活動を見ることができる。

オディロン・ルドン《グラン・ブーケ(大きな花束)》1901年、248.3×162.9㎝、パステル/画布、三菱一号館美術館蔵
また、19世紀末フランスの画家オディロン・ルドンによるパステル画の代表作《グラン・ブーケ(大きな花束)》(1901年)が、期間限定で特別展示されている。煌びやかな色彩を放つ本作は、2010年に収蔵されて以来、限られた期間しか公開されておらず、通常展示室内の壁の裏側で密かに保管されている。2019年に同館を訪れたソフィ・カルは、このルドン作品の「不在」に着想を得て、テキストとイメージが交差する自身の《グラン・ブーケ》を完成させた。彼女自身から同館に寄贈され、本展で初公開となるソフィ・カルの《グラン・ブーケ》は、美術館やコレクション、さらには美術作品そのものの「存在/不在」についての新たな問いとなる作品と言えるだろう。
再開館記念「不在」― トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル
会期:2024年11月23日(土)〜2025年1月26日(日)
開館時間:10:00〜18:00(金・第二水曜日、1月20日〜23日は 20:00まで)
休館日:月曜日(12月30日、1月13日・20日除く)、12月31日と1月1日
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
https://mimt.jp/ex/LS2024/
Text: Alma Reyes
Translation: Saya Regalado
Photos: Courtesy of Mitsubishi Ichigokan Museum, Tokyo





