パブロ・ディ・マルコ

PEOPLEText: Gisella Lifchitz

パブロは寛大な人間であり、寛大な作家だ。それについて彼は『作家たちと接していたことで学んだ』そうだ。『コロンビア人の作家が、本を執筆することは愛を宣言することだと教えてくれた。一度出版されてしまえば後戻りはない。慎重でなければいけない。多くの人は早く出版されるよう急いでしまうが、本は多くの工程を必要とするし、作家になるには忍耐力が大切だ』と言う。

この職業における最も美しいできごとは何でしたか?


執筆と出版をする中で最も貴重なのは、様々な人や場所に出会える可能性を得たことです。書く作業は孤独ですが、チームワークも次いで大切なことです。だから謝辞のない本を書く作家をあまり信用していません。本は校正、編集、出版、宣伝などの合作であり、全ての作業は繋がっています。いまあなたとぼくがコーヒーを飲みながら話しお互いを知り合っているこのインタビューも、書くということがぼくに与えてくれたもののひとつです。マドリッド、ボゴタ、メデジンに足を踏み入れたときも、同じように親しい友人たちに会えることを確信していました。

この世界で自分だけの場所と呼べる場所はどこでしょうか?

ブエノスアイレスのバーだと思います。この街にはバーや本屋が沢山あるという大きな特徴があります。ブエノスアイレスではどこにいようが最寄りのバーが100メートル圏内にはあるのです。物書きにとっては代えがたい環境です。

今までやってきていないことで挑戦したいことは何でしょうか?

ポールマッカートニーのワールドツアーに付き添うのは素敵なアイディアではありませんか?でも、あなたが聞きたいのは文学的な話ですよね。となると、より良い作家になることです。では、より良い作家の定義は何でしょう?1000個は下らない理由の中でも、ぼくは自分の怖れや疑いを知り、もっと自分のことを理解することだと思っています。内省するのは容易いことではありません。深いプールを泳ぐには、普段意識していないような、必要な時間と努力をきちんと計算すべきですよね。そんな感覚です。出版となると、まだぼくの本が発売されたことのない国にも届けたいです。


現在取り組んでいる、あるいは予定されているプロジェクトを教えてください。


コロンビアに新書の宣伝で招待されました。9月に数週間ほど滞在し、カリ、ボゴタ、トゥルア、メデジンにある本屋、大学、図書館などを巡る予定です。読者と対話するに絶好の機会ですし、先ほど言及した友人たちと会うことで自分自身を再発見するきっかけになると思います。執筆関係ですと、2020年に出版予定の小説の最終稿に取りかかります。この新刊についてはすごくいい予感がしています。

新書からの質問です。この世界の誰かとコーヒーを飲むなら、誰を選びますか?その理由も教えてください。


子どもの頃、ブエノスアイレスの典型的なカフェ「リッチモンド」に父とよく行っていました。近くのテーブルに座っていたとある年配の男性に何度か遭遇し、父はその人がこの地域で最も偉大な作家だと教えてくれました。彼はホルヘ・ルイス・ボルヘスでした。6歳のぼくにとってはただのおじいさんで、目の前のチョコレートドリンクに夢中だった。これを思い出すたびに、大人としてあの場にいられたらと悔やみます。そうしたら『ぼくは作家になろうとしているんです。ちょっとお時間いいですか?』と声をかけるのに。ぼくにとってボルヘスは完璧すぎて、複雑で深い人です。彼の本には太刀打ちできない。



別の時間と場所を選べるとしたらどこに行きたいですか?


例えば1955年のブエノスアイレスです。全ての答えは過去にあります。どこにいても場違いな気持ちになりますけれど…

こことは別の場所にいる方がいいのでは?とパブロは時々思うらしい。彼の小説の登場人物が時の迷路をさまよい旅しているのはそのせいだ。『文学は時間と戯れさせてくれる。時間を変幻自在に操り、好きなように伸ばしたり縮めたりできる』と。

彼の作品の中で、時間は巨大な怪物であり主要人物だ。時間を通じて人々は移動し、円を描き、大きな穴に飛び込んだり沈んだりする。また、時間は未解決の謎であり、全てに対する答えでもある。現実であれ想像であれ時間を巻き戻ることは、読者として私たちがプロットの流れを理解することだ。それと同時に、彼のストーリーは何度も覗き込む鏡のようであり、私たちの人生、現在、過去、未来について考えさせてくれる。

Text: Gisella Lifchitz
Translation: Hikaru Nakasuji
Photos: Gisella Lifchitz

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