アキ・カウリスマキ「白い花びら」× ハンツヴィル

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

サイレント映画であるはずの本作には唯一、役者の音声が流れるシーンがある。劇中の歌い手が「愛は傷つくもの」と歌い、都会で手に入れた仮そめの幸福の中で、待ち受ける不幸を示唆する重要な場面だ。そこで彼らは歌声を流すことなく、演奏を与えることもしなかった。静まりかえったスクリーンで、女優の歌声を観客のイマジネーションに委ねたのだ。表情や仕草など、台本を超えた女優の表現が、楽譜を超えた静寂によって情感を増したことは、知性から感覚に訴えるような素晴らしい演出だった。

終盤、妻に去られ、田舎に取り残されていた夫ユハは、ついに覚悟を決めて出た都会で、妻を奪い、善意と尊厳を踏みにじったシュメイッカに復讐を遂げ、裏切り者の妻を無事に逃がした後、戦いの負傷によりゴミの廃棄場で一人息絶える。死に様で生き様を描き表すかのような、絵的で印象的なラストシーンだ。そのラストから続くエンドロールを、ハンツヴィルは、まるでユハの鼓動が続いているかのようにほぼ一定のリズムで奏で続けることで、彼が命と引き替えに回復し、守り抜いたものを讃えているようだった。

音楽は、映画のストーリーを変えることができない。ただし、ハンツヴィルの即興生演奏には、その結末を映画に閉じ込めるのではなく、観客へ開かれたものにする力があったように思う。再現不可能な演奏は、その素晴らしさに比例して、場へ集い共有した体験を、奇跡のように感じさせてくれるものだった。終演後に客席から巻き起こった拍手は、映画と演奏からなる一つの作品に対して贈られたものだろう。

みゆき野映画祭 in 斑尾 2014の収益は、東日本大震災の被災地で、参加費無料の映画祭を開催するために使用される。今後もチャリティ・イベントとして、全国各地で様々なプログラムが開催される。2月22日には長野県の斑尾高原で、雪で作られる屋外映画館「スノーシアター」の雪のスクリーンで、北欧と日本の短編映画が上映される予定だ。スケジュールと詳細は、映画祭の公式ホームページで確認することができる。

みゆき野映画祭 in 斑尾 2014~北欧・日本国際短編映画祭~札幌
日時:2014年2月1日(土)14:00~17:00(開場13:00)
会場:北海道大学クラーク会館講堂
住所:札幌市北区北8条西8丁目
入場料:前売3500円、当日4500円、学生2000円
共催:みゆき野映画祭in斑尾実行委員会、北海道大学国際本部、オフィス・オオサワ
特別後援:フィンランドセンター、北海道フィンランド協会
後援:フィンランド大使館、ノルウェー王国大使館、日本カンテレ友の会
協力:スノウバグズ、SHIFT、プラスター
提携:トーキョーノーザンライツフェスティバル

Text: Ayumi Yakura
Photos: Ayumi Yakura

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